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刑事が一般人に対して暴行……否、軽く逆ギレしたというトラブルがあったものの、現在は落ち着いて事情聴取という形で収まっている。その刑事……青峰は黄瀬に対して、その時の様子を聞いていた。

「……じゃあ、お前がそこにいた時、なんか気になることとかなかったか?」

その問いに対して、黄瀬は深刻な表情で「それは……」と、言葉を濁した。

「……全く覚えてないんス!」

ガタガタガタっ、

黄瀬の胸ぐらを掴み、殴ろうとした右手を、寸前のところで周りの警官たちに止められる。

「巡査長ッ……!ここで手をあげてはッ!」
「うるせぇよ離せ!こいつ俺の仕事の時間無駄にしてる上に役立たずじゃねぇか!」

黄瀬はというと、「青峰っち怖いっスぅぅぅ!」と被害者ヅラで泣き叫んでいる。こんなカオスな状況を打破しようと……ため息混じりに宮地が割って入った。

「落ち着け青峰、それ以上うちの署に傷がつくようなことしたら、轢くじゃ済まさねぇぞ」

宮地の言葉を聞くなり、口を閉じて渋々イスに座り直す青峰。

「……おい、なんでもいいんだ。ちょっとしたことでもいいんだよ……なんかほら、道端に死体が落ちてましたとか」
「ちょっと待て、お前の例えがまず可笑しい」

宮地が横から突っ込むと、次の瞬間黄瀬が叫んだ。

「あ゛あッ!あったっス死体!」
「あったのかよ!?」

勢いのまま黄瀬にまで突っ込んだ宮地。青峰もまた黄瀬の証言には驚いたようで、呆気にとられている様子だ。

「おい黄瀬……それマジか」

確認するように言う青峰に、力強く頷く。

「あったっス……あった……けど、」
「けど?」

語尾だけをリピートすると、黄瀬はその言葉に続いて衝撃の一言を発する。

「人じゃなくて……ネコの死体っス!」

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同時刻。
黒子は階段を上がっていた。黒子が経営する、小さな書店の2階にそれは存在した。

ーーー「赤司探偵事務所」。

そう書かれたプレートが揺れている、ドアを2回ほど叩く。「どうぞ」という入室を促す声が聞こえ、黒子はドアノブに手をかけた。

「……テツヤ、待っていたよ」

ドアを開いた先には、部屋の一番奥の机に座り、こちらを真っ直ぐ見つめる赤髪の青年がいた。

「赤司くん、遅くなってすみません……青峰くんには、しっかり伝えてきました」
「いや、こんなことを頼んですまない。謝罪しなければならないのは僕の方だ。……まぁ、そこに座ってくれ」

いかにも高級そうなソファを指し、黒子はゆっくりそこに腰掛けた。

「色々と考えていたんだ。……テツヤは、一年前の事件を覚えているか?」
「一年前の事件、ですか?」

覚えていない、と言うように首をかしげる黒子。

「そうか……それも無理はない。あの時テツヤは経営で忙しかったからな」
「はい。近頃になってやっと安定してきました」

赤司の言葉に肯定し、申し訳なさそうに俯く。

「いや、それでいいんだ。ただ……今回の事件は、その一年前の事件と関係がありそうだ」

落ち着いた様子で紡がれた言葉に、「……えっ?」と思わず声を漏らす黒子。

「あの時の僕は、まだ青二才だったからな……根元から始末するのを怠っていた」

甘かったな、と過去の自分を戒めるように言う赤司。しかしながら……黒子は、その口調から彼は全く動じてはいないことを悟る。逆に、余裕だとでも言うように不敵に。

「あの日、この事務所に一人の男性が電話をかけてきた……」

ーーーその名は、東真吾。

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場所は、警察署に戻る。
黄瀬の事情聴取を終えた青峰が、仕事場に戻っていくと……愛が青峰に飛びついてきた。

「巡査長っ!い、いいい今黄瀬涼太くんがいたって本当ですか!?」
「あ?……あぁ、そうだけどよ」
「ひゃあああああ!なんで私を呼ばなかったんですか!?どうしてですか巡査長!私が涼太くん好きだって知ってる癖に」
「だああああっ!お前を呼んだら騒ぎ出すに決まってんだろこんな風に!」

青峰がそう指摘すると、言葉を詰まらせて反抗出来なくなる愛。

「うぅっ……だって中学生の時からファンなんですもん……」

愛は、モデル黄瀬涼太のファンである。彼がデビューしたての頃から、雑誌を買い続けているほどだ。そんな彼女を本人に会わせたら……騒ぎ出すか感動のあまり失神するかは目に見えている。

「はぁ……つか、そんなに会いたけりゃ休みの日にでも会わせてやるっつの……」
「えぇっ!?それ本当ですか!?」

……言った後、しまったと後悔する青峰。

「言いましたからね!?約束ですよ巡査長!……あ、もう5時です!では、私はこれで失礼しますね!」
「5時っ……!?ちょ、待てお前まだ仕事残ってんだろーが!」

青峰がそう怒鳴る前に、愛はカバンを掴んで部屋から出て行っていたーーー。

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「……ふぅ、巡査長はほんとよく怒鳴るなぁ。喉潰れないのかな?」

そんな呑気なことを考えながら、愛は署を出た。

「でも、巡査長と涼太くんが昔馴染みだったなんて……!意外、というか初耳!」

彼女はこの時、少し浮かれていたのだ。それ故に、注意力も低下していた。
刑事になったばかりの愛は、背後から近づいて来る影に気付いていなかった。

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