愛は突然目の前に現れた、水色という不思議な髪色の男性をじっと見つめた。身長は愛より10センチほど高め。服装は薄手のポロシャツにジーンズ。……どこからどう見ても、部外者の格好である。

「……巡査長、一般市民が不法侵入してま…」
「テツ!?」

愛の声を遮って、青峰が驚愕の声をあげた。

「お久しぶりです、青峰くん」
「て、てててテツお前こんなとこで何して……!?」

動揺する青峰に、「テツ」と呼ばれた男性はなんでもないといった様子で振る舞う。

「ちょっと青峰くんに用事があって来ました」
「よう……!?ならフツーに窓口からオレ呼び出せよ!」
「……すみません。声をかけても気付いてもらえなかったので、仕方なく」

「またかよ!?」呆れ果てたように頭をかかえ、盛大なため息をつく青峰。そんな二人のやり取りを遠巻きに見ながら……会話が途切れたところで、愛は割って入った。

「……あの、お二人は知り合いでしょうか?」
「……あ、そうです。黒子テツヤといいます。青峰くんとは中学時代からの付き合いです」

中学時代から、と聞いて「え!?巡査長にもお友達がいたんですね!」と叫ばずにはいられなかった。……刹那、再び頭に激痛がはしることとなったが。じんじんと痛む頭をさすっていると、「……で、オレに用事ってなんだよ」と青峰が尋ねた。

「……赤司くんからの言伝です」

「赤司」、という言葉に愛は僅かに反応する。男性ーーー黒子は声を潜めてそう言うと、青峰の右手を掴みそっと何かを握らせた。

「……それと、」



ーーー"お前も気を付けろ"



さらに声を低くして、青峰の耳元で囁いたその言葉に……愛はぞわりと背筋が凍る錯覚を覚えた。そっと青峰から離れ、「……だそうです」と言う黒子はあくまでも無表情だ。

「……あぁ、分かってる」

青峰はそう言って、黒子を送り届けるため入り口へと向かった。……その場にただ1人取り残された愛は、二人の背中が見えなくなるまで硬直していた。
さっきの感覚が、まだ身体に残っている。黒子が「赤司」からの伝言を伝えた時。この場にいないにもかかわらず、まるで本人がここに居て、立っていて。その言葉を告げたような不思議な感覚。
突き刺さるような声色、冷酷な視線。
何故だかわからないが、そんなことを感じた。嫌だな……私は相当疲れているらしい。
ここ何日かの披露のせいだと解釈し、一足早く仕事場に戻ろうと踵を返した。

「……にしても、さっきの人タバコ臭かったなぁー」

ーーー
ーー


署を少し出て、暫く見送ろうとしていた青峰だったが、黒子が何を思ったのか、不意に立ち止まった。

「……ここまでで大丈夫です。仕事に戻って下さい」
「あ?水臭いぞ。仕事はあいつに任せてればいい」
「彼女、やっぱり青峰くんの部下ですか?」

そう尋ねられ、表情を曇らせる青峰。

「……まぁそうなんだけどよ……正直、オレには勿体無いくらい優秀な奴だ」
「……認めているんですね」

ーーー実力を。

黒子がそう言うと、悔しそうに舌打ちする青峰。

「まぁな。オレが他人を認めるなんざ、柄じゃねぇけど」
「青峰くんが、人間的に成長したんですよ。……やっと人並みに」
「……テツてめっ、それどういう意味だよ」

脇腹を軽く小突く。すると、それだけでふらふらっとバランスを崩す黒子。

「……青峰くんは変わりませんね。昔と何も」

そう呟いたあと、「……良い意味で」と付け足す。

「……そういうお前もな」

僅かに口元を綻ばせ、片手を上げる青峰。

「なんかあったら、連絡しろよ」
「……はい。では、また来ます」

黒子もまた片手を上げ、心地よい音が鳴り響いた。

ーーー
ーー


……と、その背が見えなくなるまで黒子を見送り、署に戻ろうとしたところ、青峰の携帯が鳴った。誰からだろうと、ゆっくり発信者を確認すると……青峰の脳は一気に仕事モードに切り替わる。

「もしもし、どうしたんですか警部補ーーー」

ーーー
ーー


警察署内。
先ほど第一発見者、東の事情聴取が行われた部屋に駆けつけた青峰。部屋の中心には、警官に囲まれて座っている一人の男がいた。そして、その男はーーー部屋に飛び込んできた青峰を見ると、嬉しそうに声を弾ませた。

「ーーーあッ!青峰っち!!久しぶりっス、こんなところで会えるな…」
「警部補、本当にすいませんでしたァ!そいつオレの知り合いです!」

掠れた叫び声を上げながら、男……黄瀬涼太の隣に立つ宮地に謝罪する青峰。そんな宮地は困惑した表情をしており、勢いよく頭を下げた青峰を見下ろしている。

「……おいおい、どういうことだ説明しろ」
「いやっ、説明もなにもこいつは中学時代の知り合いで……って黄瀬!お前からもなんとか言え、つーかこっちが聞きてぇよ!」

青峰の怒りを沈めようと、「まぁまぁ青峰っち落ち着いて!」と言う黄瀬だが、逆に青峰の神経を逆なでする。

「うっせぇ!とにかくどうしてココにいるんだテメェは!」
「巡査長、昨日火事があった現場周辺を調査していたところ、怪しげな行動をしていたので連行した次第です」

一通りのやり取りを聞いていた警官が、割って説明に入った。

「いやいや!怪しげな行動ってこれっぽっちもしてないスよ!?ただ、今度あるドラマのオーディションの練習をしてただけで……」
「なんでンなことしてんだよ!家ん中でしろ外ですんな不審者!」

青峰に罵倒され、「酷いっス!」と泣き叫ぶ黄瀬。しかしすぐ気を取り直したように、楽観的な考えを口にする。

「そうだ!青峰っちの知り合いの子に、俺のファンがいるって聞いたっス!その子にサービスするってことで、なんとか丸く収めて……」
「出来るかっつーのバカ!」

思いきり黄瀬の頭に拳を振り落とした。




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