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翌日。
連続放火事件を担当する宮地警部補らは、午前10時から第一発見者の事情聴取を行った。署内の一室には、第一発見者の男性……東真吾(ひがししんご)が呼び出されていた。
部下の刑事が話をしている間、宮地は部屋の外から様子を伺っていた。

「……くそ、マジくせぇ」

宮地は鼻をつまみながら、顔をしかめ言った。煙草を吸わない宮地にとって、それは異臭以外の何物でもなかった。第一発見者の男性、東はかなりのヘビースモーカー。……そう聞いてはいたものの、ここまでとは思わなかった。一日何本吸っているのかと聞けば、呆れ果てる数字が飛び出した。彼の服や身体にこびりついた匂いは、宮地の気分を害するには充分だった。

「あぁ……気分悪りぃ、帰りたい。おい、俺帰っていいか?いいよな?……あ?駄目だと!?」

背後に控えていた自分の部下に勝手に問いかけ、勝手に逆ギレする宮地。「けっ、けけけ警部補落ち着いてくださ……!!」と、必死に宥めようとする部下の肩を掴み、今にも殴り倒す剣幕だ。

「だいたいなんだあの格好は!?真冬でもねぇくせして厚着しすぎだろ!!手袋してんぞ過度のヘビースモーカーの上に過度の寒がりか!」

だんだんと宮地のキレる方向がおかしくなってきた。もはや八つ当たりである。しかし、確かに東は季節に似合わず厚着であった。
茶髪を隠すくらいニット帽を深くかぶり、両手にはかなり分厚い革手袋。おまけに袖の長いコートを羽織っており、どこからどう見ても真冬の格好だ。しかしながら……今は真冬ではない。

「……」

不意に大人しくなり、部屋の中をガン見し始める宮地。

「……終了だ」

ボソリと呟いた言葉に、「はい?」と部下が聞き直す。

「……この事情聴取は終了だ。すぐ帰らせろ」

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「あのー、巡査長」
「……今忙しい」
「忙しそうじゃないから言ってるんですけど!?」

署内のとある一室。
「機動捜査隊」と呼ばれる部署に所属する彼等は、先日に引き続き「留守番」だった。そこで、愛は暇そうに携帯をいじる上司に声をかけたのだった。

「今日って、事件の第一発見者の事情聴取ですよね!」

身を乗り出し、楽しそうに話す愛を一瞥し……微妙に嫌な予感を感じつつ、青峰は言った。

「あー、誰かそんなこと言ってたなー……丁度今ぐらいじゃね?」
「ですよね!見てきてもいいですか?」
「おー、別に俺の知ったことじゃな…………って、ちょ待て馬鹿!!」

青峰が適当に返事をしている間に愛は走りだし、既に部屋を出て行っていた。

「待て待て待て!!戻れアホ女!俺がまた怒られるだろーが!!」

追いかけるようにして、青峰もまた部屋を出て行った。

ーーー
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愛が走っていると、背後で青峰の声が聞こえた。

「わ、巡査長もう追ってきた……!」

ここで捕まってなるものか、と気合を入れ直し愛はスピードを上げる。階段を一気に駆け下り、緩めることなくそのまま曲がり角に差し掛かった……その時、突然人が角から顔を出した。

「ひゃあ!?」
「……えっ」

派手な音をたてて、床に転がる二人。
愛は打ちつけた背中を擦りつつ、ーーー実のところ、受け身をとったためそこまで痛くはなかったーーー目の前に倒れる男に声をかけた。

「す、すみませんでした!大丈夫ですか!?」

男に手を伸ばしかけ、……愛はギョッとする。何故ならば、その男の手には大量の血が付いていたのだから。

「ご、ごごごごごごめんなさ……!!どうしよう救急車!いや救急箱!!医療費は私が負担しますだから私を訴えないでくださ……!」
「い、いやっその、大丈夫ですので!」

愛がめちゃくちゃな謝罪をしている間に、男は慌てて手に手袋を付け直す。そのまま立ち去ろうとする男を必死に呼び止め、頭を下げる……と、突然頭をガシリ、と掴まれた。

「……なにしてくれてんだテメー覚悟できてんな?」

怒りを押し殺しているような青峰の声が聞こえ、愛は絶望を確信する。

「ったくよ、お前もっと俺に迷惑かけないようにとか考えろよ、また警部補に怒られるのは俺なんだぞわかって…………?」

青峰が愛を説教していると、いつの間にか男が姿を消していた。急いで周りを見渡してみるものの、どこにも見当たらない。

「……おい、マズイぞ。こんなことで裁判とかなったらクビだぞお前も俺も」

「えー、それは流石に無いですよ」と楽天的な愛の頭を、さらに強く掴む青峰。

「とにかく……このことは警部補には黙っとけ。じゃないとあとで面倒なことになる」
「……はい。私もまだ轢かれたくないです」

刑事でありながら事実捏造を企て、そのまま部屋に戻ろうと踵を返した。と、ーーー再び愛の身体に衝撃があり、思わず「わっ!」と声をあげる。今度は倒れこそしなかったものの、ぶつかったのが何なのか分からない。

「え?巡査長、私今なにに当たってーーー」
「すみません。ぶつかりました」

突然、声が聞こえたかと思いきやーーーいつの間にか愛の目の前には、鮮やかな水色の髪をした男性が立っていた。今の今まで、誰もいなかったはずの場所に。

「…………ひゃあああああ!!?」

愛は絶叫を上げた。




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