「分からねーんだよ」

プシュッ、と音を立てて缶コーヒーのプルタブを引く。そのまま一気に飲み干すと、宮地は苛立ったように言った。

「犯人の目的がなんなのか検討がつかない。どの現場にも、共通して"赤い名刺"が残されてるから同一人物、または集団犯行である可能性が高い」

"赤い名刺"という言葉に、無意識に反応する。

「現場の周辺に住んでる住民から、なんか目撃情報はないのかよ」
「敬語使えや轢くぞ。その目撃情報がないから困ってる、恐ろしいほど慎重な犯人だ……。しかしどんなに慎重でも、普通1つや2つ目撃があってもおかしくないんだがな」

これは、思った以上……いや、相当難航しているようだ。

「……なんか、気味悪い事件だな」
「あぁ、全く面倒なことになったぜ……」

宮地はそうボヤき、肩を落とす。

「やっぱ、第一発見者を疑う方向になるんですか?」
「取り敢えずそうなるな。まずは、公園の花壇からタバコを見つけた男性からあたっていく。……しかし、この男性がまた過度のヘビースモーカーなんだよなぁ」

宮地はタバコを吸わないため、露骨に困ったような表情だったが、気を取り直すようにいつもの鋭い眼差しになった宮地を見て、ーーー青峰は震えた。それは恐怖からくる震えではなく……自分の意思とは無関係に鳥肌がたち、感銘を受けたときの震えであった。
「カッコいい」……口にしなかったものの、本気で思った。意外かもしれないが、青峰はこの物騒な上司を尊敬している。かつての自分になかったものを持っている。直感的にそう感じ、今まで必死になってついて行った。

「ーーーって、もう9時か。そういやメシまだだったわ」

ちょっと夕食の調達してくっか……そう呟きながら立ち上がる宮地。それを見ると同時に、青峰は仕事を再開する。宮地の足音が近づいてきて、"コツン"という音がした。今度は先ほどと違って、衝撃がない。

「それ終わらなかったら、絶対クビだからな」

頭上から聞こえた鬼畜な言葉とは裏腹に、その声色は部下を気遣う穏やかな声だ。バタン、と宮地が部屋のドアを閉めたのと、青峰が机の端に置かれた缶コーヒーに気付いたのはほぼ同時だった。

ーーー全く、不器用な人だ。

冷たい缶コーヒーを左手でつかみ、右手では携帯電話を取り出してある人物の電話番号を呼び出す。2、3回のコール音のあと、それが途切れ電話の向こうから無感情の声が聞こえてきた。

「もしもし……どうだ?事件の方はなんか分かっ…………あ?」

広い室内に、間抜けな声が響いた。

ーーー
ーー


同時刻、某所。
外出用の上等なジャケットを脱ぎ、シャツのネクタイを少し緩めたところで着信があった。部屋の電気もまだつけていない状態だったが、携帯の画面に表示された発信者の名前を見るとーーー男は迷うことなくそれを手に取った。

「大輝」

一言呟くように言うと、男…………「赤司征十郎」は自分のデスクに向かい、腰を下ろした。背後にある大きな窓から、暗い室内に眩しい月光が差し込み、幻想的な景色を創り出す。

『もしもし……どうだ?事件の方はなんか分か……』

ーーーやはり、そのことか。

自然と口元がほころび、どこか意味ありげな笑みを浮かべてーーー赤司ははっきりと告げた。

「大輝、名刺を1枚譲ってくれたことには感謝している。なに、心配しなくていい。僕に解けない事件などないからね。……ただ、警察に僕のことは伏せるように」

都合が悪いのはお互い様だろう?、と付け加え、その口振りはまるで……この状況を楽しんでいるように。





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