「そういえば、巡査長」

事件について話していたが、何かを思い出したかのように突然少女は言った。

「あの、刑事の権限で人探しって出来ますかね…?」
「……人探し?」

こちらの話に興味を持ったようで、仕事をする手を止める青峰。「はい。どうしても見つけたい人がいるんですけど」

「……もっと詳しく話せ」
「えっと、この前ーーー」

私はこの前掃除中、たまたま見つけた手紙のことを話した。そして、その手紙の差出人、「兄」を探したいことを伝えた。

「どうしても思い出せなくて……というか、兄なんて私にはいないんです。私、一人っ子なので」
「……お前、そいつを探し出してどうする?」

少女が話し終えると、青峰は珍しく真面目な表情で言った。

「そりゃあ、会ってみたいで…」
「却下だ」

少女が全部言い終わる前に、話を切られる。

「駄目だ、諦めろ」
「っ…!?どうしてですか!?」

少女が噛み付くように言うと、青峰は静かに言った。

「刑事の権限ってのは、お前一人のために動かせるもんじゃねぇ。それが分からねーのか?」
「……分かっています、けどっ…!」
「じゃあ、それ以上追求しないことだな」

冷たく響いたその言葉は、少女にとってまるで死刑宣告のようだった。

「……分かり、ました…」

青峰の迫力に押され、諦めるしか選択肢はなかった。それだけ言うと、肩を落として唇を噛んだ。このままにしてはいけない気がする……私は思い出さなくてはならない。「兄」と名乗る人物を。
一人で調査して、見つけ出してみせる。
そう固く決意した時……少女の考えをよんだかのように、青峰が再び口を開いた。

「無謀なこと考えてるなら止めとけ。一人じゃ無理だ」
「……っ、でも」
「お前は刑事だ。そんなことしてる暇ねぇよ」

確かに自分は刑事で、時間に余裕がないことくらい理解している。でも、こうまではっきり否定されるとどうしようもなく辛くなった。大袈裟なくらい肩を落として落胆する。……やっぱり、たった一個人の為に警察という組織を動かすことは難しいのだ。

「……なに暗いツラしてんだよ」

絶望の色を浮かべていた私に、ノートパソコンを閉じながら巡査長が言った。

「俺はそいつを探し出せないとは言ってねぇよ。……"1人じゃ無理だ"と言ったんだ」

その意味深な言葉に、私はただ「は?」と聞き返すしかできなかった。巡査長はため息をつきながら、ガタリと音を立てながら立ち上がる。

「だからだなーーー警察は動かせない。かと言ってお前1人でも難しい。……"1人でダメなら2人以上でやってみればいいんじゃねーの"?」

それを聞いて「……あっ」と思わず声をあげる。どうしてこんなに簡単なことに気がつかなかったのだろう。1人でダメなら2人ですればいい。協力できる人を探せばいいではないか。

「ありがとうございます巡査長!流石です!巡査長の協力があれば、とてもとても力強いでーーー」
「あぁ?おいおいおい、何言ってんだ俺は協力なんざしねーよ」

「……え?」私のなんとも間抜けな声が部屋に響き渡る。それもそのはず。私はてっきり話の流れから、巡査長が協力してくれるのだと思い込んでいたのだから。

「で、では私は誰を頼れば……?」
「俺は毎日仕事でいっぱいいっぱいだ、お前みたいな暇人に付き合ってる暇は……っと、そんなことはどうでもいい。……あぁ、そうだ俺の知り合いに丁度いい奴がいたわ。うん、そいつに頼め、それがいい」

勝手に自己完結させた様子の巡査長は、気だるそうに片手で頭を掻きながら携帯電話を取り出した。

「あ、駄目ですよ仕事中に……警部補にバレたらまた轢かれ……」
「うっせーな、どうせまだ帰ってこねーよ……っと、ほらよ」

私に携帯を投げてよこし、それを慌てて掴む。画面にはアドレス帳が開かれており、1人の男性のプロフィールが表示されていた。

「赤司……征十郎?」

ーーー
ーー


通常勤務の私は、「苦しんでいる上司を見捨てて帰んのかてめーは!?」と騒ぎ立てる巡査長を置いて、5時15分きっかりに署を出た。本当は、今からでも「赤司征十郎」という人物を訪ねたかったが、巡査長から「あいつも仕事で忙しいんだよ。お前のこと言っといてやるから、また今度にしろ今度に」などと言われ、結局今日のところは帰宅することにした。
ーーーただ、1つ気になったのは……"見せられたプロフィールには、名前のみが表示されていた"ということだった。

「……なんでだろ?そういえば、なんの仕事しているのかも聞いてなかったや」

顔写真もなかったため、大袈裟に言うとまさに正体不明である。仕方が無い、買い物でもしてから帰ろうーーーなどと、色々と考え事をしながら歩いていた。

ーーーその時だった。

自分の前方から歩いて来ている男性に気付かず、相手もまた俯き加減で注意していなかったのか、お互いの肩が激しくぶつかる。わっ、と思わず声をあげると同時にハンドバッグが地面に落ちた。

「す、すみませ……」
「すまない、急いでいる」

私が謝ろうと声を掛けると、その男性は一言謝罪したものの、私を見もせずに足早に去った。都内ではよくあることだが、その口ぶりは言葉とは裏腹に「自分はなにも悪くない」という言い方で、少なくともいい気はしない。



「……もう、何なの?今の赤い髪の人」





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