ーーー少女は仕事をする手を止め、顔を上げた。

「青峰巡査長」

そして、自分の向かい側の机に居る上司に声をかける。名前を呼ばれた上司は、「なんだ?」と、不機嫌全開の声色で、パソコンから目を離さずに返事した。

「あの、どうして私たちは最近連続で起こっている、"連続放火事件"の捜査から外されたのでしょうか?」
「んあ?そりゃあ……そうだな、ほら、あれだ。お前が青二才だからだ」

そんな感じで軽くあしらわれ、さっさと黙れと言うようだ。しかし、少女は上司の素っ気ない態度に懲りることなく、更に身を乗り出して言った。

「青峰巡査長は、悔しくないんですか?こんな面白そうな事件に、関わらせてもらえなくて」
「あー?別に……これ以上忙しくなりたくねーよ」

再び興味なさそうに返事をし、1ミリたりともパソコンから目を離さない。そんな様子を見て、少女はやっと諦めたように座り直し、自分の仕事と向かい合った。そして、不満げに一言漏らす。

「あーあ……私も捜査に加わりたかったなぁー」

ーーー
ーー


ことの始まりは、それはそれは小さな出来事からだった。
最初の事件は、隣町の公園で起こった。たまたま近くを通りかかった男性が、公園の隅にある、小さな花壇から煙が出ていることに気が付いた。不思議に思い、近付いて覗き込んで見ると、花壇の中に火が消え切っていないタバコが捨てられていた。
その日は湿度が低く乾燥していたため、あと少し気付くのが遅かったら火事となっていた可能性が高い。だが男性は、ただのポイ捨てだろうと思い、警察に通報しなかった。

……花壇の近くに落ちていた、裏表「赤」で染め上げられた名刺が落ちているのにも気付かずに。

最初の事件は、未遂で終わった。

次の事件は、その3日後だった。
先日の公園から、少し離れた空き家が焼けた。第一発見者の近所の女性が通報し、周りの住宅にまで被害は及ばなかった。捜査の結果、原因はタバコであることが分かり、ポイ捨てによる火の不始末、ということで処理された。空き家であることから、放火である可能性は低いという判断だ。
だから警察は、空き家の郵便受けから発見された、裏表「赤」の名刺を気にも留めなかった。

……おかしいと感じ始めたのは、この次の事件からだった。
次も公園の近くの空き家であった。
消火を終え、原因がタバコだと判明した時………一人の男性が、公園での事件を申告してきたのだ。
同じ地域で、同じ原因。そして、この空き家からも発見された、裏表「赤」の名刺。それらから、どうやら同一人物による犯行だと推測された。何かが起きているのか………よく分からないまま、その3日後にまた同じような事件が起きる。

ーーー
ーー


「……ほんと不思議ですよね、この事件!」

今までの事件の詳細を、一通り呟き続けた少女は、再び青峰に話しかけた。

「……ったくうるせーな!こっちは仕事してんだよ仕事!!」

やっとパソコンから顔を上げたと思いきや、怒鳴られた。

「つーかマジうぜぇよその事件!隣町で起こってるつーのに、件数が多すぎてとうとう、うちの刑事まで駆り出されやがった!」
「わっ!青峰巡査長の方が煩いです!それに、隣町はうちと違って人手が少ないんだから仕方ないじゃないですか!」

両手で耳を塞ぎ、必死に煩いアピールをする。

「だからって…!おかげで、ここに残った俺の仕事が倍になりやがった!」
「だから、それは仕方ないじゃないですか!!」

大声で喚き散らす青峰を、少女が諌めようとする。そこでやっと青峰は怒鳴るのを止め、今度は小声で愚痴を言い始めた。

「あーあ……もう帰りてぇ」
「駄目ですよ、巡査長は今日、当番の日じゃないですか」
「てめっ…!今敢えて忘れようとしたのに、はっきり言うな!お前、自分が通常勤務だからって調子に乗るな!」

また怒鳴る。こんなに怒鳴って、喉は大丈夫なのかと心配になる。しかし、少女は青峰が黙るまでもう何も言わなかった。
暫くして、ようやく気が済んだのか静かになった青峰は、疲れ切った表情で再びパソコンと向かい合った。

「……はぁ。どうせすぐこの事件は解決するからよ、あんま気にしない方がいいぜ」
「……?どういうことですか?」

それはまるで、事件の終わりが見えているような言い方で、少女は聞き返した。

「だから、もうすぐ終わるんだよこの事件。おそらく……一ヶ月もしないうちにな」
「何故そう言い切れるんですか?犯人がどんな目的なのかも分かっていないのに…」

……それに、裏表「赤」で染め上げられた名刺のことも。

加えて少女がそう呟いた。

「そうだな……早くても今週中、だな」

それはまるで、何かを予言するような言葉で。でも、確信しているような口ぶりだった。



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