世の中には、解決される事件と、未解決となって迷宮入りとなる事件の二種類がある。ただ、このどちらにも振り分けられない事件……例えば「存在を消された事件」。
それは何者かの手によって、事件の痕跡全てが跡形もなくもみ消された事件のこと。
警察にも、誰にも気付かれず、「未解決」とさえなっていない事件。そんな事件が、今から起こることの発端だった。
何年かの時を経て、再びゆっくりと掘り返されて行くのだ。

「存在を消された事件」から「未解決」に。

「未解決」から「解決」へ。

一度は存在を消された事件を掘り返すことが出来るのは、……その当事者のみ。
あなたは、この事件を掘り返した人物を推測出来ますか?

ーーー
ーー


「……っ、重い…!」

少女は何気無く、その箱を手に取った。
それは大学を卒業してからバタバタと準備をした、少女が持つ数少ない荷物のひとつだった。今日からの新居となるこのマンションに、ようやく届いた荷物を整理しようと思い、少女は朝からご機嫌だった。だから……いつもより警戒心が薄れていたのである。
狭い玄関に置きっ放しにしていた荷物を抱え、ちょっとした段差があるのに気付かずそのまま進んだ。そして、当然のことながらーーー段差に引っかかり、派手に転んだのだ。言うまでもなく、抱えていたダンボールも一緒に転がった。

「ぎゃぁぁぁ!!?…いっ、たたた……痛い、腰打ったかも」

腰をさすりながら起き上がると、そこで初めてダンボールに意識が移った。

「あっ!どうしよ、これ中身なんだったっけ?割れ物とか入ってなかったよね…」

慌ててガムテープを引きちぎり、中身を確認する少女。

「……なんだー、昔のアルバムかぁ。懐かしいな」

安心するのと同時に、荷物の整理を放置してアルバムに夢中になる。

「うわー、私中学の時身長低い!高校で結構伸びたなぁー」

中学の卒業アルバムを手に取り、思い出に浸りながらページをめくっていく。
ーーー不意に、その手が止まった。
アルバムの間に、一枚の「手紙」が挟まっていた。

「……?何、これ?」

見覚えのないその手紙の宛先には、確かに自分の名前が書かれてある。封を切ったあともある。不思議に思いながら、中身を取り出した。一枚の便箋が出てきて、その文章の冒頭は「誕生日おめでとう」で始まっていた。



ーーー誕生日おめでとう。
中3だから、15歳か。早いもんだな。
ずいぶんと長い間会っていないが、元気にしているか?
12月に会うのを楽しみにしてる。
今は遠く離れているけど、いつか必ず迎えに行くから待ってろ。
生まれてきてくれてありがとう。
じゃ、また今度。
ーーー兄より



「………"兄より"?」

少女は不思議そうに首を傾げたーーー何故なら、

「……おかしいな。私、"兄なんていないんだけどなぁ"…?」

全てはこの、一通の手紙から始まった。



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