安東さんが雅にフラれて、二組の空気がぎこちなくなったと、二組に友達が多いクラスメイトから聞いた。雅はまた、目立たないという立場で浮いているらしい。安東さんが二組でアイドルだった事はよくわかった。
安東さんが雅を好きだとみんなに広まってしまった今、二組の女子は誰も雅にちょっかいを出せなくなった。そして安東さんを好きだった男子は雅に対してどことなくぎこちなくなった。容易に想像出来る。
でも放課後の門で二人の友達と帰っている雅を見かけたので、全くみんなが離れていった訳じゃないらしい事に安心した。あの二人は雅といい友達になれたらしい。私の事、笑ったけどね、もう許してあげる。



2月13日、日曜日。明日はバレンタイン。彼氏と別れた私に予定は無いけど、告白すると意気込んでいる雅の妹、美歩にガトーショコラの作り方を教える約束だった。ついでなので友チョコの予定はあった詩織も一緒に作るらしい。

『今日はお兄ちゃんバイトだから、いないよ』
「そっか、じゃあそっちの方がいいね」

妹二人とスーパーで買い物をしてから桜谷家に帰った。
作り方を教えると言っても、分量を守って混ぜて焼けば出来るので、教えるのは全く問題ではなかった。問題は量だった。詩織の友チョコも数が多いし、私も多かった。そして美歩は本命なのだから一つだけ形が違って大きかった。

「で、どんな人なの」
「え〜恥ずかしいなあ〜」

私がニヤニヤしながら美歩に聞くと、美歩は照れ笑いをしながら濁した。それで引くお姉ちゃん達じゃないわよ。

「いい加減ばらしちゃいなよ、ミホ。私も気になってたし」
「えっ、シオリも知らなかったの?余計に気になるじゃない、ミホ。というか心配になって来たわよ、危ない人じゃないでしょうね?」
「ち、違うよ〜!ただ…絶対バカにされるんだもん」
「しないから、教えてよ。どんな人?」
「まさか教師じゃないでしょうね」
「違うよ、…あのね…」

三人して手が止まって、美歩が喋るまでの沈黙に耐えた。

「三年の羽田先輩…」
「…それのどこが、言いにくかったの?」
「ああ〜、その人ってあれね、お兄ちゃんにそっくりって言ってた人でしょ」
「あ、もうシオリちゃんのバカ!ケイちゃんにまでばらさないでよ〜、言うんじゃなかった〜!」

慌てる美歩があまりに可愛いので、私は笑いが止まらなくなってしまった。「ブラコンだって笑われると思ってたから」と言い渋ったわけを言う頃には美歩は耳まで赤かった。

「どんなところがミヤビに似てるの?」

ひとしきり笑いきってから、私は涙をふきながら美歩に聞いた。詩織に笑いすぎだよって逆に笑われてしまった。

「えっと、顔と」
「顔まで似てるの、それウケるわね」
「優しいところと、笑い方と、しゃべり方」
「ほとんどじゃない、どんだけ似てるの?見てみたいわ」

私は茶化したのに美歩は安心したようだった。

「ブラコンだって、言わないんだね」
「うーん、まあなんて言うか、お兄ちゃんの事はみんな大好きでしょ?」
「みんなブラコンなのよ」
「あはは!そっか〜じゃあお兄ちゃんにも作ろうね!三人から!」
「ショーさんにもね」
「お父さんはチョコレート嫌いだよ」
「シオリ達からって言ったら砂でも食べるわよ、ショーさんなら」

笑いの絶えないお菓子作りも終わり、全員分を包装してしまって、やっと座る事が出来た。友達用には綺麗に包装したけど、雅と桜谷家の父親用はお皿に乗ったままだった。
8時に帰って来るらしい雅と遭遇しないように、私は妹達に別れを告げて自分の家に帰った。自分の父親にチョコレートを渡すと、少しだけ照れて「甘いのは苦手なのにな」とか言いつつ受け取っていた。我が父ながら可愛いわ。



雅にモーニングコールをしなくなってから、私はよく寝坊した。いつもは、モーニングコールをかけなきゃ、で起きれたけど、何もないとあとちょっと…が続いて結局出る時は慌ててしまう。
バレンタインの朝、いつものように携帯の音で起きたけど、その音楽が着信音なので微睡んだ頭で疑問になった。目を細めたまま見た画面に「桜谷 雅」と表示されていたので、自分はまだ寝てるのかも、と思った。でも鳴り続ける。仕方ないので取ったけど、夢が終わる事はなかった。

『もしもし、おはようケイ』
「お…おはよう」

少し緊張している様だけど、まるでここ1ヶ月の確執なんてなかったかのように、雅はいつもの声で言った。名前を呼ばれるなんて、凄く久しぶり。嬉しい反面、私はかなり戸惑っていた。

「どうしたの…?」
『チョコレート、ありがとう』

ああ、昨日の…。妹達と一緒になら断られはしないだろうと思ってはいたけど、まさかそれだけで仲が修復出来るとは思っていない。

「毎年あげてるのに?」
『今年は、意味が違うから…』

一気に目が覚めた。
どういう意味?意味が違うって…私の気持ちがばれてるって事?どこから…まさか詩織が言ったの?ばれてるとして、わざわざお礼の電話してくるってどういう意味?「ありがとう、でもごめん」って意味?それとも…。

『話があるんだケイ、今日一緒に行かない?』




変わらないモーニングコール



written by ois







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