メールを返すのも億劫になってしまった彼氏には、別れてもらった。彼には悪い事をしてしまった。一度だって好きになれなかった。その理由が他に好きな人がいるからだとは思わなかったけど。

「何で別れたの?…というか、何で付き合ってたの?」
「軽いノリの人は嫌いじゃないからよ。あと告白されたから」
「モテる女は違うね、私もそんな事言ってみた〜い」
「もう、ふざけないでよ」
「イケメンだったのに」
「そうだっけ…?」
「うわっ、ひっどーい!ケイは桜谷くんをいつも見てたからイケメンの尺度が違うんでしょうけど、一般的にはあれはイケメンって言うんです」

仲のいいクラスメイトと、いわゆるこれはガールズトーク。楽しかったのに、突然雅の名前がでて、表情が強張ってしまった。

「桜谷くんはかっこいいよね〜羨ましいなあ、あんな幼なじみがいて。二組の友達が言ってたけど最近、感じが良くなったって。桜谷くん何かあったの?」
「…さあ、知らない」
「いいなあ、ねえケイ、改めて紹介してよ」

嫌よ。
今はもう出来ないし、出来たとしたって嫌よ。

ねえ、私彼氏と別れたよ。まあ、雅には関係のない話だけど。
クラスの子が、あんたのことかっこいいって言ってたよ。知らなかっただろうけど雅はかっこいいんだよ。鈍感よね。
進路を迷ってるの、どの大学に行くべきなんだろう…雅はどうする?

いつも何を話していたかなんて思い出せないのに、話せなくなると話したい事で溢れる。ねえ、雅。




「ケイちゃん、コーラとコーヒーどっちがいい?」
「コーラ」

雅の妹から「大量に課題が出たから助けて」というメールを受けて、私は今、雅の妹の部屋にいる。雅には二人の妹がいて、上は高1の詩織、下は中2の美歩。二人の部屋は共有だけど、美歩は朝から部活動の為に家をあけている。
土曜日の昼だけど、雅は家にいなかった。
詩織の課題は確かに大量、だった。最早鬼畜という勢い。何でなのか聞いたら、誰かが教師を怒らせ、連帯責任としてクラス全員に課せられた物らしい。詩織はやりながらぐちぐちと文句を言った。

「手伝わせてごめんね」
「いいよ、私は予定無かったから」
「あれ?ケイちゃん彼氏はどうしたの?」
「ああ…別れたの」

詩織は手を止めて、顔を上げた。

「どうして?」
「そもそも付き合っていた事自体、疑問だったからこれでいいのよ」
「好きじゃなかったの?」
「あの人が私を好きだと言ったの」

詩織はクスクス笑って、さすがケイちゃん、と言った。

「ケイちゃんが好きな人はいないの?」
「…いるよ」
「え!誰?告白しないの?」
「しないよ、最近嫌われたの」

詩織は興味津々な笑顔を、スッと消した。詩織は思慮深く、時々人の心が読めるんじゃないかと思うくらい、真をついた事を言う。だから、全ての状況を私のたったそれだけの発言で理解したって、私は驚かない。

「…お兄ちゃんは、ケイちゃんを好きだよ」
「ありがとう」

優しいのね。呟くように言った詩織の慰めに、素直に感動した。私にとってだって、詩織と美歩は妹みたいな物だもの。

「でも、片思いじゃね…迷惑よ」
「何で?片思いって迷惑なの?」
「ミヤビ、好きな人が出来たらしいの。だから私と一緒にいると、迷惑なのよ」
「…」

詩織は何度か、何かを言おうと口を開いては、閉じた。慰めの言葉が浮かばなかったらしい。気にしなくていいのに、それから詩織は雅の話は避けた。



「今日は手伝ってくれてありがとう」
「いいのよ、片付かなかったら私は明日も暇してるから呼んで」
「あはは、大丈夫。今晩には終わるもん」

玄関で詩織と別れ際の会話をしていると、美歩が部活から帰って来た。

「ケイちゃん!来てたんだ、ミホもケイちゃんと話したかった〜」
「また来るわよ、隣に住んでるんだし」
「ガトーショコラの作り方教えて、ミホ今度のバレンタインに作るから」
「いいよ。じゃあまたね妹達」

二人に手を振りながらドアを開けると、ちょうどそこに帰宅した雅が立っていた。雅は驚いた顔をしていたけど、私だって負けていないと思う。雅の顔を見るのは久しぶりな気がする。

「お兄ちゃんお帰り〜」

美歩が能天気に言うと、雅は私から顔を反らした。私は曖昧に口角を上げたけど、ちゃんと笑えてたかはわからない。私は何も言わずに雅の横をすり抜けて、家に帰った。




「クラスの子が、あんたのことかっこいいって言ってたよ」



written by ois







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