圭に肝心なところを隠して、本当の事を言った帰り、二年間クラスメイトの井之下がその事に触れてきた。

「やっぱり付き合ってたんだな、南野と」
「付き合ってないよ…やっぱりって何?」

俺が聞くと井之下の隣にいる水末が、まずい、と顔に出した。

「実は今日の昼、南野が教室来て…」
「わー待て待て」

井之下が説明しようとした時、水末が慌てて割って入った。水末が小声で井之下にまずいって、と言うと井之下もようやく空気を理解したみたいだった。そんな事されたら余計に気になるけど。

「説明してよ、ケイが何か言ってた?」
「いや…南野がってか…俺達が?」
「…が何を?」
「いや、誰が言い出したかは俺も知らねえよ?知らねえけど桜谷と南野には付き合ってるって噂があって、南野は否定してたけど、やっぱり本当だったのかなって…なあ?」

水末がかいつまんで早口で説明し、井之下に同意を求めると、井之下も、そうそう、と頷いた。ベタに嘘が上手くない二人だな。

「俺達が付き合ってるって噂だけなら、何でそんな慌ててるの」

そんな噂があるのも知らなかったけど。ちょっと不愉快だな。そして、恥ずかしい。

「降参して、教えて」
「…先に謝っとくけど、悪かった」

苦い顔をしながら水末は話しだした。
内容は要約すると、圭が俺を尻にしいていた、という物だった。俺が圭以外とあまり話さなかったのは圭が命令してたから、なんてそんなのあり得るわけないのに。
それよりも、そんな事を二人が圭に直接言った事が気になった。悪者にされる噂なんか聞かされて、圭はどう思ったんだろうか。

「なんて事言うんだよ」
「だからごめんって、ただの噂だってわかったんだから、許してよ」
「ケイに謝って欲しいよ…でも、まあいいよ」
「許してくれたついでにさ」

不機嫌な俺を理解して何とかしようとしている水末とは違って、井之下は変わらず能天気に続けた。水末の呆れた顔が面白いからまあいいや。

「なに?」
「好きなやつって誰なの、やっぱ安東?あいつ結構可愛いよな」
「いや…」
「南野は美人系だけど安東の天然ぽい可愛さのがタイプってか。乳でかいしな」

お前クラスメイトのそんなとこ見てるのか。俺は引いたが水末は食い付いていた。こういう会話って普通?完全に置いてかれてる。
俺が一歩引いて油断していると、水末が言った。

「で、結局誰なんだ?」

一瞬何の事か忘れていたが、すぐに思い出した。もちろん、質問されて思い出す顔は一人だった。

「ケイ」

二人は露骨な困惑を隠しもしなかった。

「えっ…でも、え?桜谷の行動、意味がわかんないんだけど…」
「南野が桜谷を好きで迫ってるのかと、てかあれはどう見てもそういう事だったんじゃないのか?何で南野を避ける」

俺は自嘲気味の笑いが出てる自分に気付いた。

「ケイには彼氏がいるんだ、自分の為にケイと距離取ってるんだよ」

二人はそのあと圭の話はしなかった。




我ながら、避けかたが女々しい。
アドレスを変えて暫く、俺の携帯はめっきり鳴らなかった。メールは圭とばかりしていたからだ。最近は意味のないメールが井之下や安東さんから来る。
課題をしている間は携帯を切っているので、課題が終わって携帯を開くと、大抵そのどちらかからメールが入っていた。でも今日の携帯には留守録が入っていた。

圭からだ。

『…ケイだけど』

放課後に会った時もそうだった。圭を忘れる為に取ってるこの距離は、あまり効き目がなく、むしろ久しぶりの圭にいつも以上にふわふわしてしまった。圭の声だ。

『しつこく、電話なんかしてごめんね。…でも、喧嘩腰でそれっきりなんて寂しいから、謝りたくて』

声がかすれてる。
どうしよう、また泣かせてしまったのか。

『…ごめんね』

謝るのは俺なのに。

『ミャー、大好き』

そこで留守録が切れた。嘘みたいに綺麗な留守録だった。
幼稚園の頃、まだ舌っ足らずで喋るのがうまく出来なかった圭は、俺をミャーと鳴き声のようなあだ名で呼んでいた。ミャー、大好き、というフレーズが圭の中でお気に入りだったのか、大好きと言ってくれる時は必ず、俺をミャーと呼んだ。今まではただの挨拶だったけど、今はもう全然違う言葉みたいだ。

三度聞いてから、俺は留守録を消した。




君だけの呼び方



written by ois







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