雅が私から離れていってから、雅は凄い勢いでクラスに馴染んだ。今までどこか浮いていたのは、雅が人付き合いが苦手なせいだと思っていたけど、本当は人と付き合おうとしていないからだったと思い知った。人付き合いが苦手な雅と仲良しの私は、無意識にそれに対して優越感でも覚えていたみたい。
雅は自覚していないけど、あの男は顔がいい。性格が取っ付きにくいから今まで遠巻きに見てる女の子が多かったけど、突然フレンドリーになった雅の周りには女の子が群がった。いや、私の偏った見方だけど。女の影ゼロだった雅から比べたら、ハーレム状態とだって言える。
男の不思議な習性だけど、いや…女にだって言えるところを考えると、高校生の習性かもしれないけど、異性と仲の良い人は同性からも好かれる。こうして雅は突然出来た沢山の友達に囲まれてしまい、私の入る隙なんかなくなってしまった。

「桜谷くんなら、学食だよ」
「そうなんだ、ありがとう」

例の隣の席、安東さんは可愛いお弁当袋を持って、可愛い笑顔でそう言った。そのお弁当、もちろん学食で食べるんでしょ、なんて発言出来そうもなかった。
雅はなんと、電話に出ないし、メールアドレスを変えたらしい。そして最近はバスじゃなくて電車で通ってるらしい。

そんなやり方、ないじゃない!

理由がわからない。どうして今まで通りでいられなかったの?私の彼氏のせいなの?そういえば、あの人のメールを返してなかった…まあいいや。
ううん、それとも、私は関係ないのかもしれない。雅が誰か好きな人出来て、それで私と仲良くし過ぎるのが気になったのかもしれない。鬱陶しくなって、だから怒っていたのかも。なのに私が泣いたりしたから優しい雅は、また私に構ってくれたのかもしれない。でももうそれも限界で…?
二組の前で悶々とした表情でいると、二組内で笑いが起こり、ハッとした。条件反射でその笑いの輪を見たら、その男子の集団も私を見ていた。私が笑われてたの?変な顔でもしてたかな。

「何笑ってるの?」
「南野って、桜谷にフラれたの?」

何それ。

「付き合ってないけど」

とたんに嘲笑していた集団が表情を変えた。拍子抜け、といったところだ。
というか、あんた達私がフラレたのが面白かったわけ?感じ悪すぎる。二組ボイコットしてやる。

「ぜってー付き合ってると思ってた。桜谷って南野としか普通に話さなかったし」
「付き合いが長いだけよ」
「それが急にみんなと話し出したから、彼女の南野が今まで他の人と話すなって言ってたんじゃねえかって噂になってたんだよ。だとしたら南野、ウケるくらいうざくね?って」
「よくそんな事本人に言えるわね」

びっくりするわ。名前わかんないけど、正直で軽い男子だなあ。

「いやいや、誤解だってわかったしよ。桜谷、南野の話避けるから嫌な思い出でもあんのかと。喧嘩?」
「ほっといて」

冗談をはらんでいる男子に、笑いながは答えて、私は二組を後にした。
正直、ショックが大き過ぎる。だって原因がわからないのよ。悲しい…けど。

ムカつく!
理由も言わずにこの対応なんて酷すぎる!



私は六限目をサボった。校舎の影でジュースを飲みながら時間を潰した。そして六限目が終わる五分前に、私は二組の教室に張り付いた。今日は六限で学校は終わる。私は二組のHRをドアに寄りかかって待っていた。
礼がされ、放流された二組の面々の雑談を聞きながら、私は良く知った顔を見つけた。雅も私に気付いて、何とも取れない表情をした。隠し事をしているような顔だった。

「ミヤビ、顔貸して」

周りに溢れるクラスメイト達の視線が痛かったが、気にしない。こうでもしないと雅を捕まえる事が出来なかったから仕方ないんだもの。
雅は隣にいる二人の友達に目配せし、先に行ってて、と言った。

「何?」
「ちょっと来て」
「ここで言って」

雅は優しく微笑んではいるけど、それがまた遠く感じた。こんな事しといて笑っているなんて残酷に見えた。そんな雅は怖い。

「何でこんな事するの」
「説明したでしょ」
「原因がわからないのよ!私が悪いならそう言ってよ、何をしたの?」

周りは遠慮もせずに私達の会話を聞いている。鬱陶しい、早く帰ってよ。

「ケイじゃなくて俺の事だから」
「それは何なの?…もしかして、好きな人が出来たから、とかなの…?」

一応声を落としたけど、周りにはばっちり聞こえていたみたいで、ざわざわしだした。私は噂を思い出した。私がフラレたという噂が二組にはあるんだった。これじゃ噂を増長させてるみたい、フラレてすがり付いている元カノに見えるかも。
でもここで言ってと言ったのは、雅だもの。こんな聞き方で、しかも人前で、雅が例え図星だとしても正直には言わないだろうけど、もうそれしか思い付かないの。
雅は笑顔を消した。

「そうだよ、だから一緒に居れない」

雅はそう低く言って、挨拶もなく私の前から立ち去った。残された私は宙を見ていて、私達を見ていたギャラリーは散った。

私は完全に、大事な幼なじみを無くした。本当にそうだなんて、思わなかった。雅とは私の恋愛の話しかしたことが無かったから知らなかっただけかもしれないけど、雅が誰かを好きなんて、初めて。
だから、私だってこんな気分を味わうのは初めてよ。物凄く今更だわ。泣きそうなの。寂しくて胃が痛い。だってこれって完全に…。

気付かなかった。当たり前だわ。今までふわふわしてた代償なのよ。雅が隣にいるのは当たり前だと思って、彼氏を作ったりしてたから。

ずっと雅が好きだったのに。




この恋には気付かなかった



written by ois







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