もう駄目だ、こんな事になるなんて。

圭が泣いていたから避けるのをやめるのは仕方がないんだけど、俺が圭を避けた理由はしっかりある。圭は俺が怒っていたと思っているみたいだけど、それは違う。もう近くにいれないと思ったんだ。俺はもう今までとは違うんだよ。近くにいていい人間じゃないんだ。というより、近くにいていい男じゃない。
圭は俺の態度が普通に戻ってから、何故か俺に凄く機嫌良く振る舞った。笑顔で話しかけ、ただ宿題をするにも俺の部屋でやって帰った。朝が弱い俺を起こす為にかけてくるモーニングコールも、いつもと違って優しい。今までは圭も寝起きなせいで、朝から機嫌の悪い電話をする事もあったのに。
そんな事されたら、困るんだ。本当に。俺はどうしたらいいんだ。

「お兄ちゃん、お風呂」
「わかった」

部屋で悶々としていると、妹がノックして部屋に入って来て、風呂が空いた報告に来た。ハッとして妹に返事をしたけど、妹は出て行かなかった。髪が濡れてる、風邪引くよ。

「…他に何か用?」
「お兄ちゃん、ケイちゃんと仲直りしたの?」
「別に喧嘩してたわけでもないけど…まあそんな感じだね」

妹は、それを聞いて部屋を出るどころか、入ってドアを閉めて、そこで腕を組んだ。怪訝そうな顔をしている。一体何を言われるのかと、俺は首を傾げて妹の一声を待った。

「お兄ちゃん、ケイちゃんが好きなんでしょ」

うわ、信じられない。そんなツッコミ方無しだよ…俺がどれだけ苦労してその言葉を言葉にしなかったと思ってるの。

「…見ててそう思う?」
「うん、最近は」
「俺も…そんな気がしてた」

俺はもう、いい幼なじみでいられないんだよ。一緒にいると、緊張してしまうんだ。髪の匂いなんかが気になるんだ。モーニングコールの、掠れた寝起きの声にまで、ドキドキしてしまう。一度、想像してしまった、圭の姿が頭を離れない。
なのに、今、俺にそんな風に接してくるなんて…。しかも圭には彼氏がいるのに。

「…こんな話してごめんね」
「いいよ」
「私はお兄ちゃんの味方だから」
「どうかな、それはあんまりよくないよ」
「…お兄ちゃんの方が悲しいから」

そっか。

「ちゃんと髪、乾かして寝るんだよ」
「うん、お休み」



その夜、夢を見て、目が覚めた。
朝の薄暗い中、ベッドの上で身をよじって時計を見ると、圭からモーニングコールがかかるまで、少し時間があった。俺は天井を見上げたまま、夢を思い出していた。

『ミヤビ〜…おはよう』

しばらくして鳴った携帯を取ると、圭はそう言った。あくびしながら言っているのがわかった。

「おはよう、ケイ」
『んっ…?起きてたの?珍しいね』
「ケイ、話があるんだけど」
『なに?』

忘れていてごめんね。

「小さい頃にした約束、どれくらい覚えてる?」
『将来結婚しようね、とか?』
「そんな約束はしてないでしょ、真面目にだよ」
『…』

小学校に上がった年、初めて俺たちは別のクラスになった。口下手な俺には友達が出来ず、社交的な圭にはすぐに沢山の友達が出来た。俺はそれに寂しい、と圭の前で泣いた事があった。
これじゃどっちが女の子だかわかりゃしない、と母さんに笑われたのを、今思い出したんだ。それにその時した約束。

『新しい友達は最初にミヤビに紹介する』

そう、そんな約束。俺が迷惑だと思っていたあの新しい彼氏の紹介は、俺が寂しがらない為の物だったんだ。そんな昔の事、今でも守ってるなんて。

『忘れてたんでしょ』
「うん」
『だと思った』

圭は電話の向こうで笑った。

「ごめんね、でも…もういいんだよ」
『そう、』
「俺たち、もうそこまでお互いに依存してないでしょ?ケイには彼氏もいるし、仲良しな友達もいる。俺にだってもう友達はいるんだし」
『…何が言いたいの?』
「モーニングコールはもういいよ、今までありがとう。一緒に登校するのも、夜に突然お互いの家に行くのもやめよう。ケイの彼氏が嫉妬するよ」
『…しないよ、言ってないもの』
「言った方がいいよ」

彼氏がいる圭の隣に、このまま平気でいられそうもないんだ。距離が出来たら忘れれるかもしれないし、他の女の子に目がいくかも。
付き合っていたわけでもないのに、俺は圭に別れを切り出した。




約束の有効期限



written by ois







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