ドラコは考え事をしながら、あの部屋に向かっていた。地下にある寮からでは、どこへ行くにもいくつもの階段を上らなくてはならず、一段一段を足早に上った。早く行ってしまいたかったからだ。
何故なら今夜はクリスマスで、あの部屋の近くにあるスラグホーンの部屋で、クリスマスパーティーをやるからだ。
ドラコは招待されていなかったが、そんな事気にもならなかった。むしろ招待なんかされても煩わしし、行ったりするような気分も理由も持ち合わせていなかった。パーティーなんか、やっている場合じゃないんだ。

階段を上っていた、その時。突然襲われたガクリとする、階段を踏み外したような感覚で、ドラコは考え事から嫌でも我に返った。
そこは足を挟まれる階段だ。気付いた時は既に遅し、咄嗟に踏ん張ろうとした挟まれていなかった方の足まで、その段に着いて飲み込まれてしまったのだ。

「クソッ…なんだよ!」

両足が挟まれては抜け出しようがない。片足だけでもと引っ張っても、もう一方がよりめり込むだけで望みがない。あんまり足掻いては、無様に倒れてしまう事になる。
最悪だ。6年にもなってこの階段に捕まるのはトロール並みにトロいロングボトムくらいだ。こんな所、誰かに見られてはとんでもない恥なのに、誰かが来てくれないと助からない。
ドラコは凄まじい程の羞恥とイライラに、頭痛でもしてきそうな勢いだった。
せっかくパーティー客にも見られないようにパーティーが始まるより早く出たのに、これじゃあ間違いなくパーティー客と出くわす。しかもそれがグリフィンドール生なら、最悪にも拍車が掛かるというものだ。笑われたあげく、助けてはくれないだろう。さらにこの苦境がもっと悪転すると言えば…

「…マルフォイ?」

ポッター達の誰かに見られる事だろう。
ドラコが無様な姿であくせくしている所に、背後から声をかけたのは、まさにそのポッター達の中の一人、グレンジャーだった。声でわかったが姿は見えない。後ろを見ようと体をひねれば、後ろに転ける事間違いなしだったからだ。
ドラコは杖を抜いて、肩越しにグレンジャーに向けた。自分でも無駄な脅しだということにはわかっていた。

「何も言わずにさっさと下らないパーティーに行けよ、どうせ招待客なんだろ」
「そうだけど、背後に当てずっほうに呪文を打とうとしてるあなたと、真っ直ぐあなたを狙えてる私の杖、どちらが相手に呪いをかけるに適しているかわかるなら、その杖はおろした方がいいわよ」

あーあー、うるさい、うるさい。

「…それに、一人じゃ抜け出せないみたいだけど?」
「もっともな意見をありがとよ、グレンジャー。その知ったかぶりを発揮するのは愛しの先生方の前でだけにしろよ、俺は得点をやらないからな」
「…鳴くのは構わないけど、間抜けなイタチさん。どう足掻て、そのプライドを守ったって、間抜けは今のあんたの方よ」

二年も前の話だろ、誰がイタチだ。下らない事を思い出させやがって。いいから早く行けよ、俺の後ろで何してる。

「…さっさと行け、穢れた血」
「はいはい、その形容はもう聞きなれたわよ。何とでも言いなさい。でもあんたは、そこをどうやって抜け出す気なの?」
「お前には考えも及ばない方法で抜け出すさ、だからさっさと…」
「まあ、それは面白そうね。じゃあやってみせてよ大先生。私に新しい魔法を見せくれるんでしょう?」

クソッ。失言だった。
こうなってはグレンジャーはてこでも動かないだろう。ドラコは足掻く後ろ姿をグレンジャーに晒したままで、どう抜け出すべきなのか必死で考えるはめになった。ここで例えばスリザリン生が来て助けてくれたって、グレンジャーに嘲笑を浴びせられる結果になってしまう。
時間が経つに連れて、階段の食い込みは信じられない程の痛みをもたらした。足の先にはまるで血が巡っていないようだ。もう感覚がない。

「魔法はまだ?先生。あなたが持ってるのはただの棒きれ?」
「いい加減にしろ、グレンジャー。お前後で後悔するからな」
「今させてみせなさいよ」

グレンジャーの挑発と足の痛みに、限界を感じたドラコは、当てずっぽうな呪いを背後に放った。ドラコには見えないが、物の見事に外れ、更にそれに対抗したグレンジャーの、武装解除にまんまとしてやられた。ドラコの杖は、ドラコの手を飛んで離れて行った。
ああ、クソッ…足が痛い。
ドラコは足を挟まれたまま、手と膝を上段についてへたり込んだ。ついでに最近の寝不足まで利いてる。もうふらふらしていた。
するとなんと、背後にあったグレンジャーの気配が、真横までかけ上がって来た。

「マルフォイ?」
「…なんだよ」

ドラコは顔を上げる気にもならなかった。口論も、もう面倒ではないか。
すると、横にいたグレンジャーが再び呪文を唱えた。何か悪い呪文をかけられたかと構えたドラコは、検討違いに自分の体が上に引っ張られて浮かぶのを感じた。見えない沼があった階段から、ようやく両足が抜け出すのを感じた。
上段に下ろされたドラコは、感覚が戻りつつある痺れた足により、うまく立てなかった。どこまで無様を晒せばいいんだ。

「どう致しまして」

座り込んだままのドラコは羞恥から顔を赤くして、ドラコのプライドをへし折るように容易く救出したグレンジャーを見上げながら文句を言った。

「善人ごっこか、余計な事しやがっ…」

とたんに、ドラコは言いかけた文句を飲み込んでしまった。
そうか、今日はクリスマスパーティーだ。ドレスアップなんて、当たり前じゃないか。驚いたのは、いつものボサボサ髪を想像していたせいだ。そうに決まっている。ドラコは自分に言い聞かせた。
別に、可愛いと思ったわけじゃない。

「凄い顔色しているけど、大丈夫なの?この階段ってそんなに凶悪だったかしら」
「…俺の、体調が…」

いや、何を正直に言おうとしているんだ。黙れ口。
ドラコはグレンジャーのドレスアップ姿から目を離せないまま、どうもはっきりしない頭で「これも何かの呪文か?」と訝った。いや、きっと呪文だ。動悸もそのせいだろう。
グレンジャーは正直に体調が悪いなんて言うドラコに驚いたのか、面を食らったのか、こちらもツンツンとした発言を引っ込ませた。

「具合が悪いならマダムポンフリーを呼ぶけれど…」
「そんな重病じゃない」
「そう、なら…とりあえず、立てる?」

グレンジャーは少しの警戒を残していたが、本当に心配をしているように、ドラコに手を差し伸べた。
ドラコはそんな手、払いのけたかった。しかしグレンジャーの用意していた謎の呪文も、普段の呪文と同じように正確に作用しているようだった。
ぼんやりした頭で、ドラコはその手を掴んだ。しかし痺れた足では覚束ず、立ち上がりはした物の、バランスを崩してグレンジャーにおもいっきり体重をかけてしまった。腕に肩に、おもいきり、近くに…。

「ちょっと、本当に大丈夫なの?」

大丈夫じゃない、触るたびに呪文が強力になってる。もう体が熱いと感じるレベルで動悸がしているんだ。心配するよりその呪文を解けよ。

「悪かったわ、杖を返すから…はい」
「…ああ、」

やっと足がまともになって自立できるまでに戻った。立ち上がって見てみても、グレンジャーの呪文は、ドラコの視線を自由にしなかった。

「じゃあ、私は行くけれど…助けてあげたんだから背後から呪文をかけたりはしないでよね」

パーティーに行くのか。どうせパートナーはあののっぽの…気持ちの悪い赤毛のウィーズリーだろう。
ドラコは突然、邪悪なイラつきに襲われた。改めて気付いたが、ウィーズリーみたいな血を裏切る奴は、その血を利用している、なんとも浅ましい魔法使いだ。しかもノロマで頭も悪いくせに、だ。あんな奴、ぐちゃぐちゃにすりつぶして、鍋で煮込むにふさわしい。
階段を上るグレンジャーの後ろ姿を見ながら、ドラコはウィーズリーを頭の中でどろどろに煮詰める作業に没頭した。
すると、グレンジャーは途中で、迷ったように何度か上ったり、立ち止まったりを繰り返し、その内振り返った。ドラコはもちろんその姿を見ていた。

「…メリークリスマス、マルフォイ」

グレンジャーはそれだけ言って、息を吐いてから再び階段を上りきり、見えなくなった。

あー、クソッ。
グレンジャーの呪文の完成度だけは侮れない。あんなにどうでも良かった、ナメクジのパーティーに、なんとか理由を付けてでも覗きに行きたくなってしまった。
これは一体、どういう類いの魔法だよ、ムカつく。マグル出身の、穢れた血のくせに。


そりゃあ古い魔法だ



oisクオリティ。これがドラハーと呼べるかと聞かれれば、限界がここだった、が私のアンサー。
原作にハー子のドレスアップの描写がなかったから、どんな格好してるか書けなくて、なんとも陳腐な仕上がりに。いや、それ以前の問題が…(笑)

しかしかなり楽しかったです。リクエスト、ありがとうございました!ちゅ!こんなのでよろしかったでしょうか。リクエストしてくださったあなたに捧げます。献辞。

written by ois







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