次の三人の内、唯一正しいのは誰か、と彼女は言った。

「兄は言った、弟は本当の事しか言えない、と」
「弟は言った、兄は嘘しか言えない、と」
「母は言った、兄弟は嘘つきだ、と」

俺は考えた。
兄が正しかったと仮定すると、弟は本当の事を言っている事になる。しかし弟が本当の事を言っているなら、兄は嘘しか言えず、正しいという初めの仮定が間違いになる。
その時点で俺はこのなぞなぞを諦めた。彼女は俺を混乱させたいだけのようだ、既にこの問題は筋が通らない。

「ブブー、正解は、母よ」

何を言っているんだ、母が正しいなら兄弟が言う事が逆になるだけで、通らない筋はそのままだ。

「兄弟の言う、相手が本当の事しか言えない、や、嘘しか言えない、なんて事がどうしてわかると言うの?」

なぞなぞじゃないのか。

「彼らが相手の心を読むエスパーならそうでしょう、でも相手の何が真実か知るよしもないのに、どうして相手の事を断言できるの?だから兄弟は適当な事を言っているのよ」

引っかけかよ。

「それに母の言う嘘つきが必ずいつも嘘を言っているとは言ってないでしょう、嘘つきな兄弟のどちらかが正しくてもいいのよ。人間は誰でも嘘つきだから、本当の事も嘘も言うのよ」

俺は彼女の言う事を聞きながら、縛られている手首を動かした。手錠が擦れて手首が痛い。

「ねえ、あなた今どこにいるの?」

知らないに決まってるだろ。
俺は目隠しをされているんだから。

「じゃあ、あなたは今海の中にいるわ。信じる?」

そんなわけないだろ、俺は今息をしているし、周りに水の感触はしない。潮の匂いも波の音もしないし、風も感じない。裸足の足が感じるのはコンクリートの冷たさだけだった。
答えていた俺の口に、突然柔らか肉が当たった。俺は目隠しされる前に見ていた彼女の顔を思い出して、キスされている現状に疑問と興奮を覚えた。彼女はすぐに離れた。

「今キスしたのは、私の弟よ。私だと思った?」

嘘だろ、男の唇があんなに柔らかいわけがない。

「男とキスした事あるの?」

ねえよ。

「残念だけれど、男の唇も女の唇も同じ造りになっているのよ。女のと同じだけ男の唇も柔らかいの」

だったらそこにいる弟、声を出せよ。本当は居ないんだろ。

「弟は喋れないの、喋れたとしてもあなたの為に喋りはしないわ」

ちょっと不安になった。俺はマジで男とキスして興奮してしまったのか?だとしたら死にたい。

「あら、あなた、今起きてるの?」

起きてるだろ、今さら何を言ってるんだ。返事をしているじゃないか。俺は寝言で会話しているとでも思っているのか。

「あなた今、ゼロじゃない」

何が?

「あなた一度眠ったでしょう、いつ起きたの?」

さっきだよ。

「本当に起きてるの?寝ている間に何が起こったかも知らないし、今どこにいるかの確認も出来ないでしょう。真っ暗闇の中にあなたは一人…ねえ私は本当にここにいると思う?」

感覚もあるし、耳だって聞こえるのに、俺の心臓は彼女の発言に心拍数を上げた。

「ええ、あなたは寝て、ちゃんと起きたわ。でも私の言葉が本当かなんて、あなたにはわからない…ねえ、さっきのなぞなぞだけど、一つだけ兄弟が正しいとする理論があるわ」

俺はなぞなぞの内容を思い出していた。いいや、二人が同時に正しいパターンなんかないだろう。

「嘘つき兄弟の私は兄であなたは弟、兄弟は別の人間かしら?」

また、俺の心臓は跳ねた。

「同一人物だとしたら。ねえあなたの脳は一つでしょう?あなたにとって私の嘘は、そこで決まるの…私を嘘つきにするのも、正直者にするのもあなたの頭。私ってあなたの中で喋っている事になるでしょう?」

わからない。俺の頭が信じる事が全て?何を信じるるんだ。
そういえば、どうしてこうなったか覚えていない。何故俺は縛られて目隠しをされているんだろうか。思い出せない。
そうか、なるほど夢を見ているのか。今すぐ起きなくては。起きなくては。…どうやって?

突然、俺の目隠しが取れた。目の前に、目隠しする前に見ていた彼女が悲しげな瞳で俺を見ていた。近くに綺麗顔の若い男が立っていた。

「今までの言ったのは全部嘘よ、あなた起きてるしキスしたのも私。弟じゃないよ」

でもどうやって信じるんだ?さっき言ったじゃないか、嘘は俺の頭で決まるんだ。これが夢じゃないとどうしてわかる、この状況が現実だと、どうやって信じる。
俺の脳が夢と決めたら、さっきの俺は確かに夢だったんだ。起きているなら何故俺はまだ何もわからないんだ。

「あなたすぐ私を忘れるから、イジワルしただけなの…お願い泣かないで」

泣いてる?泣いてる…。

「あなたが自分を覚えていないのは仕方がないの…病気なの。でも私が覚えてる。私を疑うなとは言わないわ、言っても仕方がないもの。でも信じてくれるなら今が夢でも現実でも構わないでしょう?私がずっとそばにいて、あなたを幸せにするから」

彼女は俺の手錠を外して、俺にキスをした。さっきと同じ感触だった。彼女の弟らしい男は部屋を出て行った。

なるほど、言いたい事がわかった。これが俺の脳内でだけ起きている事でも構わない。こんなに幸せなんだから。

「嘘」の対義語は「信じる」



真っ赤な嘘提出作品。

さて、この小説を読んでくださったあなたは、果たしてこの小説を読んだのでしょうか?書いたのでしょうか?
written by ois







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