「私さっきマンホールに話しかけかれたんだけど」

突拍子もないな。

「え、何?ホラーなら聞かないよ」
「いや、私もどこからともなく『ねえ』って言われた時はびっくりしたんだけど、探ったらそれがマンホールから聞こえてて!」
「いやいや、それ絶対幽霊だって。取り憑かれたかもしれないじゃん、お願いだから近寄るな」
「誰が喋ってるんだって思うじゃない?」
「人の話聞いてる?てか聞く気ある?」
「で聞いたらマンホールの蓋だって言うの」

聞いてないし聞く気もないらしい。どうでもいいけど絶対この天然女、頭オカシイな。誰か病院に連れて行け。

「あ、今嘘だって思ったでしょ」

いや、病状を心配した。

「私も思ったよ。だってマンホールの蓋なのに声は中から聞こえるんだもん。それ突っ込んだらなんと、口は内側に付いてるんだって〜!一本取られたって感じでしょ!」

いえ、全く。

「私もう、ときめいちゃって」
「幸せな頭だね」
「うん、ラッキーだったなマンホールに会えた事は!」

そういう意味じゃないよ。

「あ、マンホールっていうかマンホールの蓋ね!」

どっちでもいい。
ていうか、どうでもいい。

「だってね、マンホールの蓋は願い事を三つ叶えてくれるんだよ」

は?

「ちょ、ちょっと待って!今本気で心配になった!頭大丈夫かよ!?」
「え?マンホールの蓋はそこから動けないから…別に心配しなくても乱暴はされてないよ。あ、この絆創膏はマンホールの横で転けた時、怪我したやつだよ」

どうやったら転けて額の横だけを怪我出来るんだとか、もうそんなツッコミは入れてやるもんか。この天然が全部計算である可能性はあるだろうか?だとしたら、天才だ。
慌てさせたい戦法だな、だったら俺はもう絶対驚かない。全部鵜呑みにしてやる。思惑通りにいかせるか、この天然女め!

「そうそう、それで血が出ちゃって目に入りそうだったから、一つ目のお願いは絆創膏が欲しいってお願いしたの」
「へー、無欲だねえ」
「そしたら私、もう絆創膏握ってたの」

え…?本当に?
いや、騙されるな、俺。

「凄いなーマンホールの蓋は」
「でしょう!ああ、本当なんだって思ったから私あと二つを真剣に考えたよ」
「へー、どんな願い事?」
「一つ目はお父さんの浪費癖を直して骨董品を売ったお金の一部で私たちにケーキを買って来て欲しい、っていうの」

切実!っていうか、大金持ちになりたいとか言えば我が家の経済状況は回復するのに、そう言っちゃうってやっぱりだいぶ頭がオカシイな天然女め。

「叶うといいね」
「いや、もう叶ったみたい。さっきお父さんの物置部屋に行ったら空っぽだったもん」
「え?本当に?」
「本当に」

本当に?
ちょっと興味がわいて来た。

「じゃあ…最後の願い事は?」
「最後は、あんたの受験合格!だからどこ受けても合格だよ〜ちょっとレベル高いとこ狙いなよ!」

もっと何かあっただろう!とも思ったけど、言ってやる気にはならなかった。
天然女は、絆創膏しか自分の願い事を言ってない。あ、あとケーキか。マンホールが(つまりマンホールの蓋が)何でこの天然女に声をかけたか、ちょっとわからないでもない。

っていや!何洗脳されてんだ!マンホールの蓋魔神が願い事を三つ叶えてくれるだなんて、そんなばかな!
絆創膏は買ったのかもしれないし、父さんは改心したのかもしれない…。

「それに願い事なんかしなくたって、俺は合格するし!」
「何よー、よかれと思ったのに!姉ちゃんは受験失敗の経験から、可愛い弟に志望校に行って欲しかったんですー!」
「何だよマンホールの蓋って、嘘だよね?」
「信じてないんだ!ひっどい!じゃあいいよ、だったら毎晩夜なべして苦しみながら受験勉強しなよ、姉ちゃん夜食作ってあげないからね!」

何故か喧嘩になってしまった。
でも俺は信じない、その日のデザートにケーキが出てきても、教師達も絶望視していた大学に受かってたって、姉貴の机に置いてあった絆創膏にマンホール印が書いてあっても、俺は信じない。

俺は、信じない!

…信じちゃいないけど、マンホールを見る度に耳を澄ましている。もちろん、信じちゃいない。
でも、でももしかして万が一、いや億が一本当だったとしたら、二年前からなくなった、姉貴の視力を戻して欲しい。そのせいで受験は受けられなかったし、よく転けて生傷だらけだ。どうして願い事にそれを言わなかったんだ。馬鹿なやつだ、本当に。何で俺の受験なんだ、自分は受けられなかったのに…。
いや、信じちゃいないけどね、マンホールの蓋魔神なんて!全然!このマンホールの蓋だってさっきと全く一緒の…。

『ねえ』

マンホールの魔神



私なら、私が死ぬまで生きててくれる喋る黒猫が欲しいと願います。出来ればおっさん猫で悪さばっかりしてやさぐれてるやつ。そう、サブリナのセーレムみたいな!小学生の頃から欲しい猫、セーレム。
この姉弟思いの姉弟、馬鹿でしょ、そんな君たちが大好きだよ全く。ところでこれギャグのつもりだったんだけど、ギャグになってますか?(笑)
written by ois







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