今日も空気の悪い仕事場で、僕は夜勤の仕事をしていた。今日は全て済んでしまい、連絡が来て新しい仕事が無いと、暇でしょうがなかった。
僕は椅子に座って雑誌を読みながら、電話番をしていた。すると一本の電話が入った。



そして僕は、恋をした。
一目惚れなんていうのは信じていなかったし、そんな物は恋なんて物だとは思っていなかった。
そんな僕が、たった今、一目惚れをしてしまった。愛しくて、欲しくて欲しくてしょうがないと、猛烈な感情が胸からつき上がり、頭をジンジンと痺れさせた。それほど強烈な恋だった。
相手は僕の人生において、出会った事のない程の凄まじい美しさだった。薄暗いこの僕の仕事場には全く似つかわしくない。美しすぎて、キラキラ光って見えた。
今まで仕事場で沢山の人を見て来たが、そのどの人間とも違っていた。あまりにこの場所にマッチしていない、ここにいる事に尋常でない違和感を感じた。
彼女には教会や、古城が似合うような気がした。気品があり、透き通る肌は神秘的で、女神の様だった。
長い髪はブラウンで、ふわりとしていた。理由はわからないが彼女はネグリジェ姿で、薄いワンピース型のネグリジェの下に黒い下着が見えていた。ネグリジェ姿なのに彼女は腕時計を付けていて、時間は三時間前で止まっていた。

僕は泣いた。
そのあまりの美しさと、自分の大きすぎる愛に。何故ならこの想いが成就する事は出来ないからだ。彼女は僕のこの想いに気付いてくれる事も出来ない。
僕はあまりに悲しくて、震える手で彼女の指を握った。華奢な指だった。

「…知り合いだったのか?」

僕は声がした方を見た。そこには同僚が立っていて、ボタボタと涙を溢す僕の顔を哀れそうに見つめていた。

「いいや…知らない人」
「何で泣くんだ?」
「…今…初めて恋をしたから」

僕にとって彼女は初恋だった。今まで恋がこんなに苦しいなんて知らなかった。こんな事なら知りたくはなかった。
同僚は僕を疑いと同情と軽蔑が混ざったような視線でじっと見た。何を言うか悩んだのか、僕に近付くと肩を力強く掴んで軽く揺すって何も言わなかった。
同僚は僕の肩に手を置いたまま、僕と一緒に彼女を見た。

「綺麗な人だな…」
「言葉にならないほどだよ、こんなに美しい人を僕は見た事がない…」
「ああ」
「今から僕のやる事を、内緒にしていてくれるかい…」
「…ああ」

僕は彼女の頬に手を滑らせて、瞼にキスを落とした。
ゴム手袋越しではわからなかった、この激しい彼女との温度差を唇で感じ取り、僕は嗚咽を漏らして涙を溢した。

ああ、美しい彼女はその瞳の色を教えてくれる事も、その美しい唇を微笑ます事も出来ない。その肌を熱くする事もない。
僕は初恋と同時に彼女を失ってしまっていた。

僕の仕事場はモルグ、死体安置所。
彼女は三時間前に死んだのだ。

職場恋愛



昔書いた100字くらいの小説を書き直した物です。
その元々の小説を書いた時、私の中で空前のトゥルーコーリングブームが来ていました。海外ドラマです。

written by ois







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