それから更に三日経った。
男は相変わらず青い顔をしたまま震えていたが、吐く回数は減り、食べる事が少しだけ楽になっていた。代わりに排泄の回数が増えたので、私の世話の回数は結局変わらなかった。
しかし男の気分は少しずつ快方に向かっているのか、嘲笑ぎみだが笑う回数が増えた。私は男が笑うたびに幸福に思い、つられて微笑んだ。
男はたまに体を大きくびくつかせて、苦悶の表情を浮かべた。男は口に出して言わなかったが、尖らせて吐く息は苦痛を訴えているようだった。

「体、痛いですか」
「ああ…そうだな…腕が、痛い」

男は細く衰えた腕を少しだけ上げて、そう言った。腕を上げると手枷はガチャと音を立てた。
私はもう自分の事はどうでも良かった。例え男を逃がして私が上から罰を受け殺されようとも、男を救いたかった。しかし、男を逃がしてしまってはもう二度と会う事が出来ない、そう思うと枷を外すのはもう少しだけ先にと思ってしまった。
私は手枷を見ながら、一つ男に尋ねた。

「もし、その手枷を外したら、どうしますか」

男が動かず、答えないので私は男の目を見た。男は私を見ていた。

「お前を抱くよ」

男は口元を笑わせながら言ったが、冗談のようではなかった。迷わず、震えから言葉を詰まらせる事もなかった。
私は男から目を離せなかった。何故か気持ちが膨れ上がり、いっぱいになり涙になって溢れた。目から涙が溢れ、頬を伝って床に落ちた。
私は全く使っていなかった自分の牢屋に行き、鍵束から男の手枷の鍵だけを取り外して残りはそこに置いたまま男の牢屋に戻った。男は私を目で追っていた。
私は泣くのを止め、涙を拭いて男の横に膝をついた。男の手枷を持ち上げ、鍵を差し込んで回した。解錠の音とともに手枷は開き、男の手は自由になった。
男は自由になった自分の腕の手首を擦り、しばらくそれを見つめていた。それから私の方を向いて微笑んだ。
男は何も言わずに両手を広げた。私は迷わず男に体を寄せて細い首に手を回した。男は返すように私の背中に手を回した。
男の体は小刻みに震えて、か細く骨の感触がした。体温は低く、触れた背中の皮膚は冷たかった。それでも薄くなった皮膚の下で脈を打つ心臓の音が、耳で聞くよりも先に私の体に直接響いていた。
力を込めては男が痛いかもしれないと思い、私はすぐに離れた。男は私の腰に手を置いたまま離れる私の目を見た。
男は足枷をガチャガチャいわせながら、腰を浮かせて離れた私に手を伸ばして抱き直した。男は私の体を手のひらで触り、押した。肌の感触を初めて触るような行動で、私は男の自由に触らせた。
服の上からでは足りなかったのか体温をまさぐるように男は私の服の下に手を入れて肌を撫でた。男は息を上げた。その息使いから私は何が起こるかを予期したが、受け入れた。
男が私の下着の下の性器に触ると私の頭の中が焼けるように熱を帯び、息と声を漏らした。
私は服を脱いだ。男を壁に押し戻し、男の唯一の衣服を脱がした。いつか見たように男の性器は脈をうち、艶かしかった。
私は男に股がった。私の前戯を済ませようとも、男の性器は私が一度も受け入れた事がない程太く、腰を落としていくと激しく痛みを覚えた。
男は何も言葉は発しなかったが、動物のように唸り喘ぎ、息と一緒に声を出していた。私が数回、ゆっくりと腰を動かすと、男は息を詰まらせて、イッてしまった。私の中に熱い液体が溢れるのを感じたが、私は熱をもて余した。
私は男とつながったまま、男にキスをした。男は震えながらそれに応え、口を開いて私の舌を受け入れた。私は男がもう一度熱を帯びるのを待ってから、再び腰を揺らした。一度男の出した白濁液のせいで、中が滑った。
私が視界を真っ白にする瞬間、男はもう一度私の中に熱い液体を吐き出した。


終わりは私が男の手枷を外してから、そう経たずにやって来た。私が枷を外す事は無かったが、男は枷から解放される事になった。

壁にもたれて時間をやり過ごしていると、看守はいつもと同じ時間に朝ご飯を持って牢屋に入って来た。私が食事を受けとると、男が初めて看守に声をかけた。

「…終わりだ、もう…終わりにしろ」

看守は何も言わずに頷き、牢屋を出て行った。
私はどういう意味かわからないが、これで私の仕事も終わりだという事は理解した。私は食事を見つめ、男に渡した。

「手が自由だとやっと自分で食べられますね」
「…」

男は受け取らなかった。何も言わず、笑わなかった。食べたくないのか真意をはかりかねた。
私は男の食べ物を口まで運んでみた。男は口を開けてそれを食べた。
なんとなく、私はそれをカウントダウンに思った。終わりへの秒読みを感じた。私は無表情に男の口へ食べ物を運んだ。

しばらくして看守は最初にここへ来た時、私を連れて来たスーツの男を連れて帰って来た。スーツの男は迷わず廊下を進み、私と男がいる牢屋に入って来た。スーツの男は腕に毛皮のコートを抱え、手には鍵を持っていた。
私は立ち上がり、身を引いた。
スーツの男は私に見向きもせずに男の足枷を外した。男は立ち上がり、スーツの男はその男の細い体に毛皮のコートをかけた。
私は理解が追い付かなかった。

「お待ちしておりました、すぐに熱い風呂と離脱症状軽減の処置を致します。さあこれを」

スーツの男はスーツの内側からマガジン式の拳銃を取り出した。拳銃はシルバーで重々しかった。男は細い指でそれを受け取った。
男はそれで真っ直ぐに私を狙った。
私は男を見た。

「お前は、この屋敷の…主人を見た事がないだろう…、それは俺だ」

男は私を見ていた。その目はいつもと変わらなかった。言葉だけが淡々としていていつもと違う感じがした。

「お前は、他の使用人達に…穴として使われていただろう…お前は、美しいからな…。泣いて抵抗をするのに…お前は次に、そいつらに会った…時には笑う…許して。お人好しの…お前は、正体のわからない…俺でも決して…無下に扱わないだろうと…この仕事を与え、た」

私は淡々と喋る男の言葉を聞いて、違う物を見た。使用人の男達に物のように扱われ、自分の中から穢らわしい液体を掻き出す瞬間の心臓が焼ける程の悲しさを、そのあとに自分の傷を見ないふりをして笑顔で使用人達と接する影のような自分。

「お前の…仕事は、終わりだ…ご苦労」

私は喋る男の声が、体の震えとは関係なしに揺れるのを聞いて再び男を見た。
男は目に涙浮かべていた。

「お前の墓には、水仙を…植えてやる」

私はそれを聞いて、微笑んだ。
男はそれを見て、涙を溢した。

私に銃声は聞こえたが、薬莢の落ちる音は聞こえなかった。


水仙と銃(3)



全ては最後の5行の為の前フリ、最後の5行がこの話の全て。とか言うと、ちょっとかっこいい。
やたら長くてごめんなさい。でも私はこの話が、大好きです。
因みにDr.HOUSEのシーズン3で薬物の離脱症状に苦しむハウスに萌えて、書き始めました。海外ドラマです。でも書きたかった雰囲気の2割も書けなかったです。"薬チュー"には、奥さんがいたんじゃないかなって気がします。で、奥さん死んだんじゃないかな。どうでもいいですが。
まあ何故"薬チュー"が自らを投獄したのかにも、わけがあるって事だけ、なんとなくわかっていれば、それでいいんですよね。
書き始めは、"私"をぼんやり男だと思ってたのに、後半からだんだん女になった気がして、結局どっちなんだか、私にもわっかんない(笑)どっちでもいいです。

written by ois







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