近墨必緇 -スミニチカヅケバカナラズクロクナル-
三國無双:陸遜→玄徳+朱然


「お慕いしています」

それは男女なら、ほろ苦く甘やかな響きを伴う。主従ならば、深い安心を与えるもの。親類であれば、余人に測れぬ絆の温もりを。

しかしいずれも、当て嵌らないのだ。

それは、言う相手も発する時機も、この場にはない。伝えたい、伝えられない。万感、煩悶を込めた陸遜の視線の先にその対象である人物。

姿勢も正しく迷わぬ表情で想いを一心に傾ける陸遜の横顔を朱然は何とも言えず見ていた。陸遜が見る人物の方へと向く事は、はばかられた。
まともにその人物を見てしまったら、自分もまた危ういのではないか。そう思わせるだけのものを、今の陸遜から感じたのだ。

呉公、孫権の妹君と縁を結んだ盟友、劉玄徳がその妻となった孫尚香と仲睦まじく寄り添う姿がそこにはある。

乱世の婚儀に策略、奸計が混じらぬ筈がない。孫、劉、それぞれの軍師である周瑜、魯粛、諸葛亮らの思惑を乗せた婚姻はしかし誰でもない本人達が幸福に満ちた顔をして受け入れているものだから、祝福の声は自然と上がった。
まして劉備側の民草は政治の事情を知る兵士であっても、劉備が伴侶を慈しむ姿に諸手を挙げて喜んでいると言う。全く以ておめでたい話だ。

この孫呉でこの婚儀を慶事としているのは魯粛ぐらいなものだろう。彼は何かと劉備に目を掛けている。
逆に言えばそれ以外の孫呉の家臣らはこの婚儀の先を見通して警戒していると言っても過言ではない。

そして陸遜はその誰よりも苦苦しく、夜明け前の玄夜よりも暗い眼をしていた。ただ劉備本人を見る時にだけ、暗さの中に熱が篭る。煮溶かした鉄のように触れたものを消し炭にしてしまうような熱を。

「心から、お慕いしているんですよ」

陸遜が、劉備と出会ったのはこの孫劉同盟の折りのはずだ。赤壁の戦いを経ての婚儀で劉備はこの江東に滞在しているが、陸遜が劉備と邂逅したのならばその機会は僅かしかない。

その、僅かな間に、何の過ちがあったのか。

困惑する朱然の方へと漸く向き直った陸遜の微笑みの、禍々しさ。

「ですが、余りにも遠い。この手はなかなか、届かない。それでも、」

目を伏せた陸遜は両の手を持ち上げ、その掌、指先に力を入れて緩慢に握り締めた。堅く、強く。其処に何を掴み、閉じ込めたのか。

「距離があるならば進みますよ。囲いがあるなら壊すだけ。それ以上離れる事のないよう、その先は切り落とします」

そう、決めたんです。
あの方の傍には行けない。
だから奪って引き寄せる。

陸遜は朱然に向かってそう告げる。陸遜は悔やんでもなく、躊躇もなく、人の道を外れた情を恥ずかしげもなく朱然に晒して見せた。その思惑は、難しい話ではない。

「………思い留まる積もりはないんだな?」

「もうこの脚は歩き始めている。朱然殿にもお判りでしょう」

恋情と言うには昏く、思慕と言うには重い。目隠しをしながら断崖の道を迷わず進む陸遜に、朱然は小さく肯いた。

「感謝します、朱然殿」

「俺は頭を使うのは得意じゃない。お前に任せる」

陸遜は決めてしまったのだ。
自分はそれを聞いてしまった。
止めようとするよりも、協力した方が速やかに事態を収拾させられる。少なくとも朱然はそう判断した。

「いつになるかは、まだ」

劉備の傍から尚香が席を外したらしい。屋敷仕えの小者が劉備に膝まづいて何事かを話している。
きっと陸遜と朱然の訪問を伝えているのだろう。孫権から宛てがわれた劉備のこの屋敷では、連日誰かしらの訪いがあると言う。

それを見計らって陸遜はそっと、歩を進めた。朱然は少し控えてその後ろについて行く。
陸遜の肩越しに劉備がこちらの姿を認めて、笑って立ち上がるのが見えた。

何故だか眩しい気がして、朱然は目を細めた。



ムソ7猛将伝発売前に
フライング朱然→劉備妄想!!
まだCP未満でスイマセン!
夷陵と言えば陸遜と、
火計部隊・朱然ですよ!
キャラや喋りは捏造です
スイマセンスイマセン。
ムソ公式のお陰で
陸劉にプラスできる
良い燃料を頂けたので
今後は火計サンドも励みます。






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