夷陵沈屍 -イリョウチンシ-
三國:陸遜×玄徳


「お加減は、如何ですか」

返る言葉を期待している訳ではない。
牀の上で空を見つめる瞳が
こちらに向いてくれれば、良い。

「家宰に聞きましたよ。
 今日は水も、粥も
 口にして下さったそうですね」

こちらを視る
あなたのその瞳に、
僅かなりとも感情の色が
乗っていたならば、嬉しい。

「薬湯も、出来れば
 召し上がって下さい。
 お躰の回復に繋がります」

そうしてその感情が、
悲憤でも恨みでも憎悪でも、
強く重く鋭く私を射抜くものなら。

「……どうか、
 お頼み申し上げます」

私という存在を恨みの糧にして、
あなたが生き繋ぐ理由になるのならば
それがどんな形でもいい、
むしろそれでいい。

「仇の手に落ちた己が身を
捨てようなどと思わないで下さい」

伸ばした手でほつれたあなたの髪を
そっとかき上げて耳に掛けた。
私のささやかな所作に触れて、
怒りに震えるあなたがいとしい。

「死んでしまっては終わりですよ。
 あなたの国、臣民らの未来が
 御心配でしょう」

言い聞かせるよう
耳元でそっと。
声音を捩じ込めば
ぎくりと強張る細い躰。

私を見上げる、
双つの濡れた膜の上に私が映る。

その瞬間に背骨を這い上がった
零れんばかりの歓びを
どうにか呑み込んで、
私はあなたを優しく
両の腕で包んだ。

「玄徳殿。
 どうか生き永らえて下さい」

わからない、どうして、なぜ。
そう言わんばかりの眼で
私を見つめるあなた。

判らなくて良いのです、
どうしようもないのです、
何故かと言っても仕方がない。

私があなたを好きなだけ。

その気持ちの根元は
とても暗くて黒い。

何かが足りない。
何もかも足りていない。

だがこの心は満ちている。
欠けているのに悦んでいる。

「死にたいなんて、
 思ってはいけない。
 あなたは、
 死に急いではいけない」

ただただあなたが欲しいだけです。
あなただけが居れば良い。
それだけで良い。




何度妄想しても飽き足らず
夷陵ザッツアフター陸遜ver。
ウチでのムソ陸遜は病みも歪曲も
自覚して呑みこみ済み。





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