手のひらの楽園


緑と翠が織り成す青々しい絨毯をかき分けて続く細い道。
進むほどにその道を挟んで咲く花の数が増えていく。それを美しい麗しいと言う感覚は残念ながら自分の中には存在しない。一般論として心打つ景色なのだろうと頷けるだけだ。

ただ、愛おしい。

花が咲き誇る情景が色濃くなるほど、目的地の近さを裏付ける。もう直ぐだ。見えてくる。可愛らしい造りの2階建ての一軒家、庭には道の周りとはまた違う花たちが丹精されつつも伸びやかに育っている。
やがて道の途中から土の上に煉瓦を薄く切り出した敷石が点在し始め、固くなった感触に確かめるように踏みしめながら進んでいく。あと10歩。もう目の前だ。
ブラウンオークの素朴なドアに取り付けられた真鍮のノブに手を伸ばす。自分が掴むより先に控えめにノブが回って開いたドアの向こう側、2つのエメラルドが真っ直ぐにこちらを見詰めたかと思うと、ふわりと溶けるような微笑を浮かべて細くなる。

「お帰りなさい、セフィ」

鈴のような軽く甘い声が自分の事を呼んで出迎える至福は何ものにも代え難い。
だが彼女の豊かな巻き毛が結い上げられた背中の向こうに流れてくるくると弾んでいるその陰で、自分と同じ銀髪をした3人の子供が彼女の腰にしがみついているのが面白くない。
更に部屋の奥にはかつての自分の同僚であった黒髪の男が当然と言わんばかりの顔で居座っているものだから尚更だ。
だがまずは沸き上がりかけた苛立ちも芽吹きかけた不機嫌の種も抑えて彼女に応えなくてはいけない。帰ってきたのだ。約束の地があるとするなら、自分のそれは、ここだ。
その頬にそっと手を伸ばすと彼女はくすぐったそうに首をすくめた。恋しい、愛しい、くるおしい。万感を込めた接触は予想以上に臆病で、それでも。
自分を見上げてくる彼女の額にキスをする。

「ただいま、エアリス」

子供3兄弟とザックスの不平満々の声が上がったが、エアリスを抱き締める腕をオレがほどく訳がなかった。



[ END ]





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