きらきらきつね

星銀狐姉妹


姉・星狐(ほしぎつね)、妹・銀狐(ぎんぎつね)。
名前というよりは呼び合う為のもの。
生まれて間もない内に母・月狐と引き離されて、山の狐に育てられて二匹で生きてきた。
その狐も二匹が二つ三つの年の頃に人間に狩られてしまい、以来人には近付いてはいけないのだと星狐は心に刻み、妹を守る為に強く在ろうと心に決める。


玄徳との出会い
※ムソ7で時期要確認※
大体玄ちゃんの放浪時代辺りで。山深い地域で怪我をした星狐、泣いて傍に寄り添う銀狐を見つける。牙を剥いて警戒心を丸出しに威嚇する星狐。姉の怪我を案じる銀狐をそれでも後ろに庇う。



ははうえとはなればなれになったのは、ぎんぎつねがうまれてまもなかったころ。わたしたちをかくすようにかばっていなくなったははうえ。そのあとをおっていくにんげんたち。さわがしいおと。うるさいこえ。それがとおざかるのをただ、わたしはきいていた。ぎんぎつねをぎゅっとしながら、いきをころしていた。

私たちを育ててくれたのは、子どもをなくしたという老いた狐。その狐もまた、食べ物を探しに行ったときに狩られてしまった。母上のように優しくはなかったけれど、母のように厳しく、生きるためにだいじなことを教えてくれた。姉なのだから、銀狐はおまえが守らねばならないよと言い聞かせられた。わかっている。今の私にとっての宝物、妹の銀狐。母上の代わりに必ず守ってみせる。

油断。とはいえ、まだ幼さの残る姉の星狐が妹の銀狐を気づかいながら進む山深いその地はまだ慣れぬ土地、人間が仕掛けた狡猾な罠に掛かってしまっても何も不思議ではない。
草と落ち葉に隠された、踏めば虎の牙のように仕込み刃が噛み合わせるように勢いよく閉じるその罠は、星狐の片膝から下を無惨に食んでいた。
骨にまで食い込んだ苦痛が地面に滴らせているのは真紅。その出血を気に留めもせず星狐は目の前、頭上といえる高さにある存在を睨め付けている。
銀狐は泣きながら星狐にすがりついている。


人間は私達を狩るもの、食べるもの。私達が兎を食べるのと同じ。
人間は危険なもの、でも妹は守らなくては。
牙を納めて、星狐は静かな目で玄徳に相対する。

「わたしを食べていいから、この仔はにがして」

玄徳は眼を見開いたのち、痛ましく眉を寄せる。

「いや、いや、あねうえ、しんじゃやだ」

大泣きしてしがみ付こうとする銀狐を払いのける星狐。
そっと膝をついた玄徳に駆け寄る銀狐に、不意をつかれて星狐はぎょっとする。だが怪我のせいで素早く動けず、銀狐は玄徳の膝に縋って懇願する。

「あねうえをたべないで! わたしがたべものとってくるから、あねうえはたべちゃだめ…!」

違うの、銀、人間は私達を見つけたら殺して皮を剥いで肉を食べるの、そういうものなの。星狐は銀狐を玄徳から離そうとするが、立ち上がる事さえ出来ない。玄徳の手が銀狐の頭に伸ばされる。もう駄目だと思った。

「安心なさい。私はお前たちを食べない」

今度は星狐が眼を見開いた。この人間は何を言ってるのだろう。
銀狐も驚きに泣き止み、きょとんとした瞳で自分の頭を撫でる玄徳を見上げている。

「たべないの?」

「ああ、食べない。絶対にだ」

「ぜったい?なんで…?」

「お腹が空いていないから。お前たちも、お腹がいっぱいの時に狩ったりしないだろう?」

「でも、でも…」

「うそを言わないで!」

折れそうな脚の痛みも忘れて星狐は吠える。自分たちの面倒を見てくれていた母代わりの山狐、狩った人間はまた別な狐の皮を身に纏っていた。

「食べなくても、かるでしょう!?わたしたちの皮はやくに立つって、あなたたちは身につけてる!」

怪我がひどくなる星狐を止めようとする銀狐。玄徳は悲しそうな眼を一瞬だけして、すぐに柔らかにほほ笑んだ。

「少なくとも、私は着るものに困っていないなぁ。お腹も空いていないし、お前たちの命を奪う必要がないんだ」

だから助けたいのだと言う玄徳に、星狐は困惑する。助けてどうする、何になる、得があるのかと。
玄徳は痛そうじゃないか、辛そうじゃないか、見ているこちらが苦しくなるから助けたいんだと言う。

何が何だか判らずに、星狐は泣きそうになる。こんなに人間と話した事はないし、この人間の言っている意味が判らないし、妹をどうにかして助けたいのに体が動かないし、目も霞む。

「自分の怪我を省みず、弱き者を守る為に気力を尽くす、お前は立派だな。でも、もう大丈夫だ。この劉玄徳がお前と妹の身柄をしかと預かろう」

「……いもうとを、食べない?」

「ああ。お前たち姉妹、今この時より私が守ろう。食べも狩りもしないぞ。私の命に懸けて誓う」

「あねうえぇ…」

いつの間にかそばに来ていた銀狐がくしゃくしゃの顔で星狐に抱きついている。玄徳の手が今度は星狐の頭の上に伸ばされて、優しく撫でた。

「よくがんばった。お前はもう安心して良いんだ」

あたたかい。毛皮を持たない人間の手なのに、まるで母上のようにあたたかい。星狐の意識はそこでそうっと消えた。

狐姉妹の警戒をさせないようにと、隠れて様子を伺っていた関羽と張飛が姿を現す。
狐は狐でも、人間みたいじゃねぇか、張飛は玄徳が抱き上げた星狐の顔をのぞき込んで憤慨する。まだこんなにちいせぇくせに根性見せやがってと、頭を撫でる。
姉が妹を、妹が姉を思いやるその姿に心を打たれたと、まるで我ら義兄弟ですなと関羽は優しい眼差しで姉妹を見やる。そんな関羽の流れる美髯に見とれる銀狐。関羽はほほ笑んでしゃがみ、肩に抱き上げる。これで姉君の様子も見えよう。
俺らのガキどもに良い遊び相手が出来たと笑う張飛に、うなずく関羽。

人間の幼女にしか見えない姿に狐の耳と尾を生やした姉妹。
最初見た時は驚いたが、狐か人間かなど関係なく家族の情と絆を重んじるその心に、玄徳は姿の奇異などどうでもよくなったが、おとうと達もまたなんの違和もなく受け容れている、そんな様子に玄徳は二人への信頼を一層深めた。
またこの姉妹はどうやら自分たちをただの狐だと思い込んでいるのではないかとも、思った。それではこの先生きていくには余りにも危ういだろう。
だが人でも獣でもない生き物だとしても、この幼い命と出会った以上は見過ごせぬ、守ってやるのだと玄徳は心に決める。


母・月狐
星銀姉妹を隠して、囮になって人間を引きつけていたら離ればなれになっていた。姉妹は母は自分たちの代わりに狩られたと思っている。母が戻るより早く人の声が近づいて来たものだから、必死に姉妹で逃げてしまった。本当に小さい頃だったから、母狐の顔を覚えておらず、判っているのは匂いと温もりだけ。
その後も月狐は娘達を探すが、途中出会った諸葛亮と夫婦になる。
一つは娘達は人間の囚われている可能性もあるから、人間側から探る必要もある。一つは出会った諸葛亮があまりにも…情けない、ほっとけない男だったので、求婚されて絆された為。
諸葛亮は月狐がただの狐ではないこと、娘達を捜している事情も知っていて協力している。
諸葛亮の妻になるに当たり黄家の娘と言う事にして、人間で過ごすために月英と名乗っている。

「ちなみに月英…その、娘たちは一体どなたとの…(ゴニョゴニョ)」
「どの狐、と申しましても。いつかの発情期に一等強かった雄としか覚えていないのです。母には生まれた子が何よりも大切、所詮雄は行きずりの関わりですから」
「な…なるほど。それもそうですね……(行きずりの、にはならないよう気をつけなくては…!)」

そして諸葛亮がいつか玄徳の元に迎えられた時に、狐親子は再会する。
最初は母と判らず、抱き締められた温もりに、匂いに母と知る。


狐姉妹の成長
玄徳は何かと背負う者が多い人である為に(あと姉妹にデラ甘い)、最終的には銀狐は関羽、星狐は張飛の養女になる。
銀狐は関羽の美髯に興味深々だったのもあるが、自分で上手く制御できない怪力を関家三兄弟で止める事が多々あった為。
星狐は張飛がその度胸を気に入り、息子の苞がやんちゃなのと好対照で釣り合い取れるとの事で。

放浪の玄徳軍に引き取られた姉妹は、この優しい人が自分たちだけでない、自分たちのように弱かった多くの命を抱えて生きている人だと知る。
最初の星狐は疑う気持ちもあったが、過ごす時間を重ねるたびに深まる玄徳達との絆に信頼の情も湧いた。自分も役に立ちたい、この人達と生きて行きたいと、望むのは星狐だけでなく銀狐も同じ気持ちだった。
ある時、姉妹の成長がやけに早い事に玄徳兄弟は気付いて驚く。
出会った当初は五つか六つ、それが数ヶ月で十、十四といって差し支えないほどの外見に。
姉妹は早く大きくなりたいのだと言う。野生に生きていたのだから戦う為の力はある、その使い方を教えて欲しい、玄徳たちの戦いの役に立ちたいと。

玄徳は幼い姉妹に戦いの痛みを知って欲しくなかった。
しかし関・張は姉妹の強い志と、戦うに不足ない実力をよく判っているので当人達の意志を汲んでやった方が良いと後押しする。
姉妹が、玄徳の側にいて一緒に戦いたいのだと言う。そして玄徳は折れた。

銀狐は改め銀屏、星狐は改め星彩と名を貰い、関・張それぞれの娘となる。
出会ってまだ2、3年。年の頃はすでに十七か十九に見えるほど、姉妹は成長していた。





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