[無]陸遜×玄徳
[無]陸遜×玄徳


憎しみと怒りと恨みに瞳を燃え上がらせる貴方はとてつもなく美しかった。


「陸、遜」


剣を握り此方に向かって来る劉備に少しの手負いを認めて、陸遜は悲しそうに眼を細めた。他の隊にもあれほどこの方には手を出すなと言い含めたのに。白い額を流れる赤がひどく鮮やかで痛々しいのにとても似合っている。
しかしやはり傷はよろしくない。跡にならないよう、早々に手当てをして差し上げなければ。

陸遜の後ろに控える腕の確かな子飼いの兵達数人、彼らは陸遜以上に劉備との距離を縮めようとはしない。
この後陸遜がどんな行動を取ろうと、その場から動くなと言う陸遜の命令を違える事はない。劉備を縛する用意は出来ているが、陸遜の合図なく先走れば命令違反で首を落とされる。

何より陸遜がどれだけこの人を欲しがっていたか、その為に手を回してきたか、よく知っている腹心ばかりだ。


「はい」


我知らず陸遜の口元に笑みが浮かぶ。
あと少し、もう少しで、届く。


「貴方が殺したくてたまらない、陸伯言は此処に」


陸遜の手から、離れて落ちる剣1対。
これには劉備も驚いたらしいが、勢いは変わらず陸遜に肉迫する。土を蹴って草が千切れて向かい来る、その瞬間に劉備の剣が突き出される。
まずは右手。黒光りする刀身が今まさに自身を貫こうとするのに、陸遜の顔から笑みは消えない。
陸遜は左手を持ち上げた。一瞬でも間違えれば間に合わなかったであろう僅かな違いで、劉備の剣は陸遜の胴ではなく左手の平を貫いた。変わらぬ陸遜の表情。劉備が目を見開く。
傷口が広がるのを厭わず陸遜は左手で囲った刀身をぐ、と動かした。抜く隙もなく劉備は距離を詰めるしかない。
ほぼ同時といっても差支えなく追いついた劉備の左手の剣は、右の剣が捕らわれてしまった時点で目指すべき方向を失った。それでもと突き出されたものの、陸遜の躰から大きく逸れてしまったその金色に輝く刀身を陸遜は敢えて掴んだ。革の手甲を皮膚ごと切り裂いて押し通る刃の熱。
突進する勢いはそう直ぐに殺がれるものではない。劉備は自分の剣が進むがままに陸遜の目の前に、何ひとつ致命傷を負わせられずに到達してしまう。

じくじくと。
左の手からは溢れる血流に合わせて熱が脈動する。右の手からは遅れてやってきた。
痛みがない訳ではない。それにも勝る喜びが、陸遜の苦痛を意識から遠ざける。
やっとだ。やっと捕まえた。

陸遜は掌を貫き通している黒い刀身も握りしめた。これで、確実に逃がさない。自分の意思が肉の組織にまで伝達するのか、刃を食む傷口は都合よくきつく締まっている。
陸遜が笑いながらじっと劉備を見つめれば、怒りに満ち満ちた劉備の瞳が曇った。困惑と躊躇。

憎い仇を前にして、劉備は元の劉備に戻ろうとしている。仁者、徳の君と言われた劉備に。そうすれば、負の情が原動力でこの戦を起こした劉備はもう終わる。
無駄な言葉は煩わしいだけだ。陸遜から劉備に何かを語る事はない。ここまで来れば劉備自身がこの戦への疑問に向かい合い、後悔と自責の念を生みだすだろう。

憎悪と怨恨でもって推し進めて来た蜀漢の大軍、しかし総大将ともあろう者が突出して前線に押し入り、これで指揮する陸遜を倒せば最小限の被害で蜀漢の勝利にはなったろう、しかしこちらにもそれは言える事だ。劉備を討ち取れば蜀漢そのものが終わる。
勿論、陸遜は討つのではなく捕えるのが目的だ。

昔から望んでいた。
ずっと欲しかった。
漸く叶う。

劉備の手からほんの少しだけ力が抜けたのを肉に繋がる刀身から感じた陸遜は、ほっと息をつく。これで必要以上に疵付けずに済む。この人に傷も痛みも似合わない。他人の苦痛に涙を流す様こそ劉備に似合う。

やがて力なく膝を着いた劉備の手から離れた剣を、少し名残惜しくだが素っ気なく陸遜は抜き去った。劉備が手にしていない剣はただの道具にしか過ぎない。
握り締めていた方と合わせて虚しい音を立てて地面に転がるそれを、兵卒の一人が素早く拾い上げて劉備から離した。その警戒の必要は恐らくないだろうが、労いを含んで陸遜は頷いてみせる。


「抵抗する様子はありません。丁重に捕縛を」


敵の総大将を捕えたと言うのに、誰一人として沸き立つことなく、伝令に走る者もいなかった。






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pixivに上げている陸劉ログに
評価100点頂きまして、
誠に有り難う御座います!
陸劉好きな方々に10回評価して
頂けたかと思うと感無量…っっ
このイラストを表紙に
エア新刊やってみたのですが
楽しかったです。
上記のSSはサンプル漫画の
1頁を文章変換で。
やはりウチのりっくんは
病んでいる模様。
エア新刊のタイトルは
思いつかなかったのでサイトの
SSから流用しますた。







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