カレルの身体が砂になり、風に流されるように消えて行った。止血をしたところでどうにもならない事は最初から解かっていた。寄生型と違い、装備型のエクソシストはアクマの弾丸に撃たれれば時期ウィルスに侵食され朽ち果てる。何度もその光景を見て来たのに。泣きながら、掠れた声でカレルの名前を叫ぶウタの身体を強く抱きしめる。何故こうなってしまったのか自分でも解からない。ただ、望みとは直ぐ絶たれてしまうものだ。今がまさにその様を酷く鮮明に表している。幾度となく絶望と惨劇を繰り返しても、その度に挫折して希望を失って行っても、命有る限り俺達は生きていかなければならない。戦わなければならない。其れが、残された者が背負うべき宿命なのだろう。






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『右肩から先が?』


「ああ、あとはリハビリ次第で動かせるようになるか、ならないか…だと。」


任務の報告の為、コムイに電話を繋げる。


右肩の正中神経の断裂により、それより先にはもう感覚が伝達されないだろう、とウタの治療を終えた医者が申し訳無さそうに言った。どうやら縫合は難しいらしく、良くて動かせるくらいにまでは回復するらしいが、エクソシストにとってそのような後遺症は命取りだ。


『リハビリは教団でやろう。取り敢えず、もう少しウタちゃんが安定したら迎えを寄越すから、全てはそれからだね。』


「俺はどうする。」


『神田君はウタちゃんに付き添ってあげて。カレル君の亡き後だ…暫く君達に任務は回さないから、少し休んで。』


「…俺は、」


『これは命令だよ。』


「……チッ…」


音を立てて受話器を置く。何時に無くコムイの口調は強かった。きっと心配されているのだろう。溜息を吐きながら、袋に入ったカレルのイノセンスを見る。アクマの銃弾により適合者と共に砕け散った其れは錆びていて、もうカレルがこの世に存在しないという事を思い知らされるようだった。ギリっと唇を噛み締める。俺のことはどうだっていい、それよりもウタを残して死んだ事。カレルは、ウタより先には絶対に死なないと言っていた。だから、黙って彼女を託した。あいつなら彼女を守れると思ったから。そして、ウタもカレルの事を好きだったから。


それなのに。


ウタに「大好き」と言って、目を閉じたカレル。微笑んでいたけれど、どれだけ遣り残した事があり、悔しかった事か。長く行動を共にしていた癖に、あいつが亡き今、解かる事はたったの一つだけだ。





もっと生きて、ウタと一緒にいたかっただろうな。





「お前、何で死んだんだよ…」






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何も変わらないいつもの街、人々。今日も何処かで悲劇が起こり、アクマは増え続ける。唯一変わったのは、隣にカレルが居ない事。世界は変わらないけれど、景色は一変する。そして気付く。何かが足りない。其れは貴方にしか埋められないモノであって、貴方にしか、解からないモノだ。





「調子はどうだ。」


「うん、結構、良くなって来た。」


あれから暫くして目を覚ましたウタ。やはり右肩から下の感覚は無いようで、動かなかった。固定された其の腕は痛々しくも、筋肉の収縮により次第に細くなって行った。団服に包まれない身体は華奢で、こんな体格で普段戦っているのかと思うと心配になった。傷の方は順調に回復しつつあるので、今日にでも教団からの迎えが来るだろう。暫くは病棟に閉じ込められるのだろうが。


「ね、神田。ご飯、おいしく、無かった…。」


「そうか。」


「早く、教団に、帰りたいなぁ。」


「…そうだな。」


あの日から、ウタの口からあいつの名前が出ることは無くなった。目を離せばいつも何かを考え込むように窓の外をずっと眺めていて。でも、今までと変わらないたわいも無い会話で笑ったり、拗ねたりしている彼女を見て、少し安心した。カレルが死んだ時、もしかしてこいつも後を追うのではないかと思ったが、そのような気は更々無いらしい。必死に這い上がろうとしているのか、それとも、忘れようとしているのか。解からないけれど、コムイの言う通り少し休む事も必要かもしれないと思った。


「歩けるか?」


「うん、大丈夫。」










そして、何も知らずに、間違った道を進み始めていた。






第一章 愛が失われた日 04
(少しずつ歪んで行く)
(貴方のいない、セカイ。)





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あとがき

いつになく内容が無いよう。
回想はまだ続きます!(もうやめ
早く最終話を書きたい。
気が早い、早過ぎる。

シリアスとか切ないのは
大好きだけども最後は
ハッピーエンドじゃないと
きもちわるい。もやもや




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