「ウタ、頑張れ…直ぐ医者に連れて行くからな。」


カレルがウタの身体に布を巻いてキツく縛り、背負う。家を出ると、先程殆ど倒したはずのアクマが再び自分達の目の前に溢れかえっていて、舌打を漏らしながら六幻を鞘から引き抜く。


「神田、一人じゃ危険だ!」


「ならどうしろっつーんだ!ウタを背負いながら戦うなんて、無理があるだろうが!だったら俺がお前達の盾になる!」


「でも!」


「五月蝿ぇ、ウタを、彼女を救いたく無ぇのか!」


「…っ」


「い、い…おい、てっ、て、」


「ウタ…っ」


カレルに背負われたウタに目を向ける。顔色を真っ青にしたウタはぐったりとしながらも意識を取り戻していて、白い唇を懸命に動かした。


「ぼ、くは、も、だめ、だか、ら、じゃまに、なる、だけ、だから、おねが…っ、おいてっ、て」


ギリ、と唇を噛む。この状況下じゃ、其れが最善の方法なのだろう。しかし、俺もカレルも、そんな事許すはずがない。だからと言って、何か他に方法があるわけでも無く。


「も、う、つうか、くも、きのう、してな、いから、いたく、ない、よ、だいじょ、ぶ、だか、ら、」


カレルは、浅くも荒く呼吸を繰り返しながら掠れた声でそう言うウタを見て、ギリ、と唇を噛み締めると、再び家の戸を開いて中へ入って行った。灯りの点かない家の中は真っ暗で、其の闇に飲まれる途中にこちらを振り返ったカレルは涙目になりながら叫んだ。


「悪い、少しだけ、時間稼いでくれ!」


其の表情を見た時、嗚呼、こいつには敵わない、と、心の底から痛感した。






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彼女が苦しそうに声を絞り出して言葉を発した時、今背中に感じている温もりが失なわれるという事を鮮明に想像してしまい、全身が震え上がった。正気など、最初から無かったのかもしれない。


この家へ足を踏み入れた時から気付いていた、地下に向かって伸びる階段を駆け下りる。きっと、二階よりも遥かに頑丈だろう。更に深い闇の中で硬い何かにぶち当たり、扉だと確信する。有り難い事に鍵はかかっておらず、重たい其れを開くと何時から使われていないのか、ぶわ、と埃が舞った。が、今、そんな事はどうでもいい。この部屋なら、僕達がアクマを倒す少しの間、彼女を守ってくれるだろう。


「カ、レル、んぅ、」


ソファに下ろして、唇を押し付ける。なるべく傷に衝撃を与えたくは無かったが、どうしても彼女の存在を感じたくて、つい強くしてしまう。乾いた唇を舐めてから、口内を犯して行く。ウタは僕の団服の裾をギュっと握って、必死に其れに答えようとしていた。


「そういう事、言わない。」


唇を離して、息継ぎも与えないまま抱きしめる。小さい肩が先程よりも大きく上下していて、自己嫌悪に陥った。でも、身体の何処かが音を立てて軋んで、痛いんだ。


「『もう駄目』、とか、僕達がいるのになんでそういう事言うの。僕と神田はウタに生きてほしいって必死なんだよ。だから、生きようとしてよ。」


『見ていないと消えてしまいそうで…』。死の淵に立たされた彼女を見て更に不安になった。死への恐怖感が無い。触れれば消えてしまうと思っていたから敢えて聞かないでおいたけれど、其れがたった今、解かったような気がする。彼女は、生きることに対して全くと言って良い程に執着が無い。今思い返せば、何時だってそうだったじゃないか。彼女が弱った姿を初めて見てやっと気が付いた。


「お願いだ、生きようとしてくれ。理由が無いのならつくればいい、疲れたと言うのなら休めばいい。全部僕が抱きしめるよ、生きてさえ居ればこの先ずっと一緒なんだから。」


「まだ、いき、る?」


「うん。生きるんだよ、この先ずっと、三人で一緒に生きるんだよ。」


「…ひとり、に、しな、い?」


「しない。絶対に、しない。」


「や、くそく、…ね」


その言葉の直後、再びウタの身体から力が抜けた。首元に微かに感じる熱気から、呼吸はある。安心したのだろう。此処に彼女一人を置いて行くのはとても躊躇いがあったが、外では神田が戦っているし、奴等を倒さなければ病院へ向かえない。そっとウタをソファの上に寝かせて、もう一度唇を落とす。今度は優しいものを。





「約束ね。」





ずっと一緒だよ。





第一章 愛が失われた日 02
(ずっと一緒だって、言った。)
(生きてさえ、いれば。)
(うそつき、きらい。)





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あとがき

また中途半端に1Pだけ更新。
既に死亡フラグが立っている
カレルさん…めっちゃいい奴
設定なのにいかせない。
癖があるほうがすきだ。

どうでもいい話。
いま朝の6時です。今更ながら
とても眠たいです。仕事か…。
目の下の隈が熊でガオーだな。




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