「最後の一匹か、思ったより多かったな。」


鬱蒼と木の生い茂る森の中。


羽を失われ、足を失われ、逃げる術を失くしたアクマはじわじわと自分に迫り来る恐怖の対象を見上げ、口元を緩ませた。


「ハッ、お前こそ傷だらけで、何を、」


自身の冷たい首が微かな温もりにキツく締め付けられる。


「痛いのは、だーい好きだ。」


木々に遮られ月の光すらも届かない漆黒の其の中で、二つの緑眼が真っ直ぐとアクマを捕らえていた。


「な、んだ、お前、」


「でもな、」










殺しはもーっと、大好きなんだ。










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『さっきウタが帰ってきたよ。』


任務の報告書を提出し自室へ戻ろうとすれば自分にとって最も重要な知らせを背後から聞かされ、長期任務による疲労すらも忘れて彼女が居るであろう部屋に駆け足で向かっていた。


彼女は目を離せばいつも、今はもう使われていないあの部屋にいる。


其れがどれだけ俺の心を抉っているのかを、知ってか、知らずか、彼女はいつも俺を試すような事ばかりするのだ。


案の定、扉を開くとこの部屋の主だった奴の香りに混じって、消毒液の匂いがして来た。


ベッドの上で、腰まで布団を掛けうつ伏せになるウタは上を着ておらず一瞬ドキッとしたが、しかし、暗い部屋の中で目を凝らして見れば身体は痛々しくも包帯を巻かれていて、唯一露出されている肩にすら掠り傷が有り思わず息を飲んだ。


眠っているのか規則正しく上下する小さい背中に包帯の上からそっと手を置く。


「ん…神田、帰ってきたの…?」


「起きてたのか。」


「うとうとしてた…。」


目を擦りながら這うようにして今度は仰向けになり、己の膝の上でふわりと微笑む、暗い部屋の中でも認識出来るウタの緑眼と目が合い、軽く頭を持ち上げてやり唇を落とす。


ぐ、とシャツの襟を掴まれ、それに答えるように、更に深く深く、角度を変えて行き、お互いを求め合う。


「…神田は…何処にも行くなよ…。」


「解かってる、俺はアイツじゃない。」


「絶対だよ…?」


「ああ、お前の隣に、いる。」


「うん…ありがと…。」


任務から帰って来ると必ず、泣きそうな声でそう言われ、毎回同じ会話を繰り返す。


自分達は何時から間違えてしまったのだろうか、それとも、最初から正しい道なんて用意されていなかったのだろうか、其処に本当に『愛』はあるのだろうか。


何時からこんなに歪んだ関係になってしまったのだろうか…。


「っ、」


「傷、痛むか?」


「平気、だからもっと、んっ」


火照った体を強く、強く、抱く。


煙草を押し付けたような跡が目立つ細い手首を掴んで、華奢な身体に顔を埋める。


繰り返される、過ち。


其れを知らない、今は亡き、ウタが愛していた…否、愛している人。


「身体熱くなってる、婦長から痛み止め貰ってくるからじっとしてろ。」


「いい、このままで、」


「……。」


「痛いの、好きだから、」


熱を持った身体に、滴る汗。


痛みを我慢しているのかシーツを握り締めていて、でも、口元を見れば微かに微笑んでいて、其の矛盾に苛立ち込み上げて来る下劣な其れを彼女を抱きしめることでどうにか抑え込む。


「神田…」


「何だよ。」


「ごめん。」


「…もう、寝ろ。」


謝るなよ、泣きそうな癖に、笑って。


自分でもよく解からないが、ウタに対しての胸を締め付けられるようなこの想いは、俺が彼女を愛しているからだろう。


しかし、ウタは違う。


あいつを亡くした事により、ぽっかりと開いてしまった心の穴、そして、深々と負ってしまった、この先もずっと治らないであろう心の傷を、他の誰か…、俺を使って埋めようとするのなら、まだ良かった。


でも彼女は、隣にいる俺さえも視界に入れないまま、自分を責めて、傷付けて、その癖、何処にも行かないで、と泣きそうな目で、真っ直ぐと俺を見てそう言うのだ。


彼女と唇を重ねる度に感じる虚しさ、この状況をどうする事も出来ない不甲斐無さ、其れを日頃感じている癖に彼女に対しての消えてくれないこの想いで、何度押し潰されそうになった事か。


死んだ奴には、どう足掻いたって、敵わないだろう。






序章
(愛する人を亡くしたお前と)
(そんなお前を愛す俺)





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あとがき

書きたかったネタってこれかよ!と
思った方申し訳無いです支離滅裂に
なっちまったぜふへへ。

恋人を亡くした夢主ちゃんと、
そんな夢主ちゃんを好きな神田
君のお話です。

切/シリアスのご予定。

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