岩泉 一 の場合




新たな週のはじめ、また今日から一週間が始まるのかと誰しもが行きたくない、早く帰りたいと思う月曜日。私は学校を休んでしまった。


理由は月のモノがピンポイントできてしまったから。


皆が憂鬱に思う月曜日だけれど私にとってはハッピーデーだし学校へ行きたかった。
だって今日、月曜日は我が最愛の彼氏が所属する男子バレーボール部の貴重なオフ日なのだ。


毎週楽しみにしている岩泉君との下校の時間が奪われてしまったことを思うと本当に残念でならない。けれど、この下腹部の痛みと気持ち悪さ、おそらく微熱もあるだろう。こんな状態で登校しても早退することが目に見えている。


「ごめん、今日学校休むね」

「大丈夫か」


岩泉君へ休みの連絡を入れた所、割と早くに返信が返ってきたものだから驚いた。たった4文字のシンプルな返信だけれど、真っ先に心配してくれる岩泉君のこういう男らしいところが大好きだ。


思いがけない嬉しさから気がまぎれ少し具合がよくなったのかも...そう思い身体を起こそうとしたがズシン...またまた重い痛みの波が押し寄せてきて起き上がろうとしていた身体をゴロリと横に倒す。


「名前ー、お母さん仕事行ってくるけどちゃんと寝てなさいよ」
「は......い」


階下から響いたお母さんの声にうまく返事が出来ない。けれど、少ししてバタンというドアが閉まる音とガチャリという鍵をまわす音が聞こえてきて、あーお母さん行っちゃったなと独りごちながら痛みに耐える。


どうして私は生理痛が酷いのだろう。友達のユカちゃんは生理痛なんてこの方なったためしがないと言っていた。そういう人だっているのにずるい。


いろいろ考えるけれど、とにかく気持ちの悪さは続いていて、、、ひとまずこの気持ちの悪さを封じ込める為無理やり瞼を閉じた。





部屋に差し込む西日の眩しさが目に沁みて薄っすら目を開ける。
時計を見たらもう16:30をまわっているではないか。


どれだけ寝てしまっていたのだろう、でも寝ていたことでかなり痛みも和らいだしすっきりした気がする。そうなると身体が次に求めるのは空腹で、、、そういえば今日はまだ何も口にしていなかったなと何か食べ物にありつこうとふらふら階段を降りた。


冷蔵庫を開けてみるけれど、うーん、作り置きも何もない。お母さんめ......まあ、こうなったとき何も食べないって知ってるもんなあ、作ってあるわけないかと小さくため息を吐き、野菜スープでも作ろうかなあと野菜室に手をかけたときだった。


ピンポーン......
玄関のチャイムの音が家にこだまする。


誰だろうこんな時間に、お母さん?いやいやお母さんは仕事18時までだしそれにピンポンはしないよね、宅急便とかだろうか?


モニターに映る来訪者をそろりと確認するとびっくりして口があんぐりと開いてしまった。
そこには学校帰りと思われる制服姿の岩泉君が映っていたのだから。


慌てて玄関を開けるとやっぱり岩泉君でこれは夢でなかろうかと何回か瞼をぱちくりしてみる。何回閉じて開いてもそこには岩泉君が居て、混乱と驚きで軽いパニックを起こしそうになる。だがそんな名前を逆に体調が悪いと捉えたのだろう、


「わりい、突然。その...見舞いにきた」
「あ、う、ん」


心配そうに怪訝な顔で見下ろしてくる岩泉君をみてコクコクと顔を頷かせることしかできなかった。


段々と状況が呑み込めてきて今度は顔色が曇る。思えば私、よれよれのパジャマ姿でなんの可愛げもない!こんな姿を岩泉君に見られるなんて。どうしてマシなものに着替えてから玄関を開けなかったのだろう。羞恥がこみ上げて顔にぶわっと熱が集中する。


でもそんな私の思考などどうでもいいとばかりに「お邪魔します」と軽く挨拶したあと、岩泉君は私との距離を一気につめる。


「おばさん居ないのか」
「うん、今日は仕事行ってて」
「てか名前、何起き上がってんだ?熱は?」


じりっと詰め寄られた距離にびっくりして足を引こうと身体に命令をしたけれど、岩泉君のほうが何倍も速くてあっという間に私の身体は岩泉君の中へすぽんと納まってしまった。
少し汗をかいて貼りついてしまっておいる前髪をするりと掻き分けおでこにぎゅっと手を当てられる。


「熱はとりあえずなさそうだけどな、とりあえず寝ろ、ベッドへいくか?」


背中にまわされた手がポンポンとなでてくれて私の心臓はこれでもかというくらい悲鳴をあげる。


「い、岩泉くん...」
「あ...?」
「今は熱ないと思うし大丈夫。それにね、私風邪じゃなくて...あの、いわゆる女の子の日というやつでして...」


岩泉君には今まで生理で休んだときも体調不良としか言ってこなかったけれど、いつかはバレるだろうし言ってもいいよね。そう意を決して伝えてみたのだけれど、私のいきなりの”今日は生理なんです”の告白に岩泉君が固まってしまった。


まだ抱擁が解かれない腕の中、見上げた先の岩泉君の顔がすごく赤い。


明後日の方向を向いて必死に赤い顔を隠そうとしている姿が可笑しくって何度も見てしまう。


「おい、何じろじろと人の顔を...」
「だって岩泉君がかわいくって」
「......」
「ごめんね、急に...」


まだこんな会話をするのは早かったのかな、やっとこ手を繋ぐのを済ませたばかりの関係な私たちにとってこの話題って刺激が強すぎたのかもしれない。


そんなふうに思考をめぐらせたところだったけれど、起き上がってからしばらく引っ込んだままであった痛みがまたズウンとやってきて、耐え切れず岩泉君の胸元へと倒れこむような姿勢をとってしまった。


「っ...ごごめん。岩泉く、」
「しゃべるなよ、辛いんだろ」


そう言うと岩泉君は今まで抱きとめていた腕をパッと離すと今度は私の膝裏に手をかけ持ち上げた。身体がフワリ宙に浮いたのも一瞬の出来事で、抗議する暇もなく私の身体はスタスタと運ばれ寝かされた先はリビングのソファ。


こうやってさらりと男気ある行動に出るの本当にやめてもらいたい。おかげでお腹だけだなく心臓も痛いということをこの人は分かっているのだろうか。


それなのに


「痛いところ、ここか?」


なんて言いながらお腹の下辺りに手を当ててさすさすと擦ってくれるものだから。


私、もう白旗あげちゃっていいですか?


「岩泉君、ありがとね、来てくれて」
「...いいから寝てろ」


ぶっきらぼうな言葉とは真逆のその優しい手つきに安心感と心地よさを感じて...
空いていたお腹だったけれど心は満腹に満ちた。


―Even on bad days, I’ll still be happy with you!―
-嫌な日も貴方と一緒ならハッピーでいられる 岩泉Ver.-


どこまでもカッコいい岩ちゃん。男子高校生なウブな所も伝われば良いなと思い書きました。




main
top