及川 徹 の場合


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※大学生設定
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ずきん。

寝起きと同時に下腹部にきた違和感。
それだけで今日という日を過ごす事が嫌になってしまう。


なんとなく前かがみの姿勢でよたりよたりとトイレへ行ってみると察しのとおりで、やっぱり嫌だなあという気持ちがまた積もった。


今日はできれば学校に行きたくない。でもこんな日に限って必修が1限からあるって本当についてない。


私はいつも月のモノが重い。毎月のことで分かってはいるのだけれど、来月こそは痛くないのではないか、というよく分からない期待をしてソレが訪れた瞬間に絶望することを繰り返している。


でも薬にはあまり頼りたくないという気持ちもあって、まずはお腹あたため作戦をして講義に出ようと思い腹巻を装着!と、ここまではよかったのだが、次にその上から貼るホッカイロを装備しようとした私の手が止まる...。


ああ、カイロ切らしてる。この前使い終わって新しく箱買いしようと思っていたのに、私買っていなかったんだ。


どうして買わなかったんだよ自分!と昨日までの自分を恨むけれどいたしかたない。カイロは帰りがけにドラッグストアへ寄って入手するしかないか、とため息をこぼし、名前はアパートを出て、自転車で15分ほど先の大学のキャンパスを目指した。


そうして迎えた一限目。いやあ、本当に痛いなこりゃ、それに心なしか身体もかっかしてぽーっとする気がする。


唯一の救いはこの授業が大教室で行われるものであることだろう。とりあえず出席さえしていれば単位は出ると言われているため、広い教室内は寝ている人も少なくはない。


名前もそんな人たちの例にならって、お腹を抱きかかえるように机に頭を突っ伏して講義を受ける...


出口に近い後ろの席も確保できたのはラッキーだったと思う。今日の2限は空きだから終わったら即効で買い物に行こう。今日の全ての講義が終わるまで我慢とか身体が持たない。


終われ、終われ、早く、終われ


呪文を唱えるように頭の中でブツブツと唱えはじめたそのときだった、


ドサッ。


突っ伏した頭の傍に何かビニール袋が置かれるような音が耳をかすめた。


びくん、と身体を震わせ頭を横に動かしてみると、視界に入ったのは予想した通りのスーパーの袋、と、人の影?


「随分弱ってるねー、大丈夫?」


びくん、聴こえた声にもう一度身体が震える。


「徹?」


今度は伏せた上半身をぐぐぐっと力を上げて座る名前の横に立つ人物を見る。
そこには、名前の同じ大学の同期兼彼氏である徹が立っているではないか。


「うん、おはよ」


そういうと、徹は空いていた私の隣の席へと腰掛ける。


「あれ、徹の学科はこの授業必修じゃないよね?」
「そうだね」


あくまでも講義中、2人の間でしか聞えない声で徹に話しかける。なんで、ここに徹が居るのだろう?相変わらずの鈍い痛みに覆われている私の頭の中はまだ理解が追いついていない。


「じゃあなんで」
「朝から名前の顔がみたくなっちゃってさー」
「は」
「ってのは半分は合ってるんだけど、もう半分はさ、とりあえずその袋の中身見てみれば?」


そういえばさっき置かれた袋、何が入っていたのだろう。中身が早く見たくてビニールがカサカサと大きな音を立ててしまったけれど、先生すみません。


そこから出てきたものを見て名前の目は大きく見開く。


「ど、どうして...」
「おまえ、そろそろ必要じゃないかなって思ってさ、」


中に入っていたのは名前が朝から欲してたまらなかったホッカイロである。しかも箱で用意されているという奇跡。


「え、えええ、うわあ、すごいナイスタイミングすぎて、感動したよ。すごい!なんか徹のこと私、見直したよ」
「ちょ、なんか見直したってなにさ、名前のことなら何でも知ってる徹くんをもっと褒めてくれてもいいんだよ!」
「本当にありがとう、実は今朝から女の子の日きちゃってさ、でも切らしてて大変だったとこで...て、え?あれ、徹になったこと言ったっけ私...」
「ん?なにが」
「いや、だから!私、まだ徹に生理になったって言ってないよね?」
「言ってないけど、」


そう口にする徹になんだか嫌な予感がする。そう思った時には続く次の言葉が発せられていて、ただでさえ無くなっている血の気がさらに引いた私はピシっと凍り付いてしまった。


「だって、名前の周期ってだいたい29日じゃん」


な、なにを言っているんだこの男、今、周期とか言い出さなかったか...。もしかして、今までの私の生理日把握されていたってこと。


私が固まっているのを気にせず、「ほらほら」とアプリ画面を見せてくる徹に私は更に言葉を失う。なんと、そこには私の生理カレンダーが勝手に登録されていたのである。


「やっぱ、彼女の身体のことは知っておきたいじゃん。ほら、付き合ってやることやってんだし、」


なんなの、たしかに女馴れしているのは分かってはいたことだけれど、さすがにここまでは...。


「ごめん、びっくりして言葉にならない。ほんとに気持ち悪いんだけど」
「ええっ、ちょっとそれはひどい!言いすぎ!」
「いやいや無理だよね、何勝手に人の生理日チェックしてんの。あー、ほんと気持ち悪い無理無理、やっぱ徹って気持ち悪い、これは岩ちゃんへの愚痴り行き案件だよ」
「だからなんで岩ちゃんにそんな話をするんだよ、それにそんな話したらおまえの生理のことがもれなくバレるけどいいわけ?」
「あ...」
「まあまあ、苛々はよくないって、黙って俺に任せときなよ。ほら、そろそろ講義終わるからホッカイロ貼りに行って早くお腹を温めなよね」


ああー、もう誰のせいで...!でも、あれ、不思議とお腹の痛みが少し和らいでいるかも。


なんやかんや、心がお腹ではなく徹に向いたことでリラックスできているのだろうか。


いやいや、それはない。認めたくはない。


言いたいことは色々あるんだけれど、でも―。


キーンコーンカーンコーン―



講義が終わるチャイムと同時に私たちは教室を後にする。私を支えるようにして隣を一緒に歩いてくれる徹をチラリとみる。


その横顔は心配そうで真剣そのものだったから、、別の意味で少しドキリとしてしまうではないか。


やれやれと思いながらも、またズシリとした重みを下腹部に感じ、まずはホッカイロを貼ろう、そう思う名前なのであった。



―Even on bad days, I’ll still be happy with you!―
-嫌な日も貴方と一緒ならハッピーでいられる 及川Ver.-


及川さんの場合、彼女の生理日を完璧に把握しているとか大いにありえるなと、そして彼女に引かれていそうだなと思うわけです。




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