04.




何がどうってわけじゃないけれどぎこちない。


川でのバーベキューの一件から気まずい仲が続く俺と華さん。俺が名前で呼んで欲しいだなんて言ったからだろうか。今日なんて廊下ですれ違っただけなのに明らかに無視だもんな、参ったよ。


頭を垂らしながら今日の塾が終わりトボトボと自転車置き場を目指す。流石に夜21時になるとシンと身に染みる寒さ、季節は冬になっていた。


「東峰、なんで置いてくんだよ」
「あ、すまん」


後ろから追いかけてきた金田の声に少し振り返り連なって歩く。


「そーいえばさ、今2人きりになったこのタイミングで聞くけど東峰と華さんってどうしちゃったわけ?」
「うっ、な、」
「いやあ、お前ら見てるとさあ、なんつーかこう、やきもきするっていうか」
「嫌、違うから!」
「ん?東峰、華さんのこと好きなんじゃねえの?」


何故バレたのだろう、いつからばれているのだろう。だが今は藁にもすがる思いだ。


「せっかく一緒の帰り道なんだからさ、途中まで一緒に帰るようにするってのはどうよ」
「おーい、華さん、智代さん一緒に帰ろうぜ」


金田は前を進む華さんと智代さんの2人組に意図も簡単に声をかけ、


「ほら、いってこい よ!」
「うわぁっ」


ドンと背中を押され華さんと智代さんの隣に並ぶ。華さんは突然の俺の登場に一瞬ハッと驚いて目を曇らせたような表情をしたような気がしたけれど、智代さんもいてくれたこともあって今日の塾の話なんかをあれこれと話せた。


「それじゃ、俺らこっちだから」
「華、東峰くん、また明日ー!」


途中金田と智代さんが抜けて2人になり、会話はほぼ皆無だったけれど今までの微妙な気まずさは少し和らいだのかもしれない。


「ま、また明日」
「うん、またね」


お互いの家への分かれ道となるT字路の突き当たりで挨拶をして別れた。


それから塾のある日は決まって4人で帰るようになった俺たち。学校でも廊下でのすれ違い際に「おーマネッチ、」「おっす」と呼び合える仲になれている。


でもそれじゃダメなんだ。仲良く話せるようになったのは嬉しいことだけれどそれだと今までとなんら変わらないじゃないか。どうして俺は好きだの一言が伝えられないんだ。


「東峰、お前何してんだよ、せっかくいい感じに一緒に帰れてるのにまだ告れねーのか」


体育で体育館へ向う途中の廊下で金田に話しかけられた。


「う…」
「はあ、何でそうなよっちいかねえ、」
「んじゃさ、俺が華さんに告ってもいいのかよ」
「は、」
「何もお前だけの華さんってワケじゃねーだろ今の時点では。それに最近?部活引退してから髪も伸ばしてるし可愛くなっ「だめだっ!
......お前には悪いけど」


突然語気を強めた俺に廊下を歩いていた人たちが振り向いたもんだから俺の方がびっくりして最後は声が萎んでしまった。でも華さんを好きな気持ちは負けたくない。


「その意気だろ、」


コツンと背中を小突かれてハッと気づかされる。


「金田はいいヤツだな」
「そりゃあ、お友達の東峰君の為だ、いつまでもいじいじされてもたまんねえ、中学校生活ラスト、いい思い出つくるべ」
「うっす」





今日も今日とて塾から帰る帰り道、先頭を歩く金田と智代さん、そして後ろに続く華さんと俺。


毎度今日こそ気持ちを伝えようと思ってはいるものの、普通に歩いて話して帰るだけなのにそもそもどうやって告白のタイミングに持ち込めば良いのかが分からない。自分の情けなさがどうしようもなくなって俺は深いため息を吐いた。


「ん、マネッチ、どうしたの、今日の英語の小テスト駄目だったとか」
「あー、うん、それも悪かったんだけど」
「それも?じゃあ何かあった?」
「えっ、いや、そういうわけじゃ」
「ははーん、私には言えない悩みかな、マネッチくん?」
「う..ん」
「え、図星なの?ねえ、智代ー、金田くん、マネッチ何か悩み事があるんだって」
「ちょ、華さん!?」
「だって皆に話した方がいいよ、悩みなら聞くって私たちの仲じゃん」


そう言われて更に心がズキリと痛む。華さんにとって俺は、俺たちは友達なんだろうか、仲良しグループのうちの1人、そっか、そうだよな、


「おー、東峰マネッチくん、悩みだったら俺に何でも言ってくれよ」
「だっ、金田」
「へー何々?あ、さては恋の悩み?」
「「ふ、ふぇ?!」」


智代さんの突然の”恋”というワードについ変な声をあげてしまったけれど、え、俺の声にかぶさった声って、、華さん?


「東峰はともかくだ、華さんまでおふたりさん何かあったのかな?」
「まあまあ金田、いーから、いーから。よくわからん奴らは放っておこ」


か、金田のやつ、このタイミングで変なこと言うなよな。それに智代さんまで恋とか言うから妙に、、、って華さん凄く顔真っ赤。


でもこれはこれであのバーベキューの時みたいな、、わあ、か、可愛い。


華さんの赤面に少しつられたから俺も両頬の熱があがるけれど、今日はこの可愛い華さんが見られたからちょっと幸せだな。なんて1人で一連の流れを自己解決しようとしていた矢先だった、


華さんが自分の手を顔の前でクイクイと招いてきた。どうかしたのかと腰を少しかがめてそっと顔を近づけると


「ねえ、マネッチこの後ちょっと時間てある?」
「えっ。う、うん」


こしょこしょと耳元で囁かれて思わず身震いをしてしまった。だがなんとか肯定の返事はできたはずだ。


「「じゃあ、また明日」」


金田と智代さんの2人と別れT字路に着くまでの間、俺たちは一言も話さなかった。


先程の気まずさが続いていたし華さんから何も言わせまいというオーラがあったからだ。


今日は塾の後1時間皆で自主勉をしたせいもあって夜22時をこえている田舎道、人っ子一人居ない。街灯は一応あるけれど突きあたりから3メートルほどいったあたりに1つ。


互いにくっきりと相手の顔が見えない中俺たちは2人向かい合って立っている。


そしてシンとした静寂…。


華さんは凄みのあるオーラを身にまとって俺の正面に立っている。余り見えなくてもその迫力が凄く伝わった。


怒っているのか。う…ちょっと怖いような。お、俺、華さんに何かしちゃったかな。いや、待てよ、ひょっとして今がその時なんじゃ、こんなふうに2人きりで誰もいない所に居られるってこの先あるのか?そうだ、


「あの、華さ「あのさ!」


言わなきゃと言葉を発した俺の声に被せて、


大きな凛とした声で…


「私ね……」


それは、


「私、マネッチ、いいえ、旭くんのことが…好き!」


それは余りにも唐突で


でも俺の耳に、胸に、そして全身を貫いた。


ーそこにあったもの、いまここにあるものー
一世一代の日




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