本音は何色-@
普通に生活をしていれば彼氏ができる、そんな確証もないことを誰が言ったのだろう。たしか親戚のおばさんだった気がする。
中学生の時の初恋は気持ちを伝える前に散り落ち、高校生は美術部と絵画教室に通うことに手一杯で恋愛をするということがわからないまま大学に入った私。
あれよあれよという間に4年生になり、このまま大学生活も終わるのだろうと思っていた矢先のこと。
神様、私に突然の春が芽吹いたようです。
私、苗字名前、齢21にして、はじめて彼氏というものができました。
しかもなんと年下くん。同じ天鵞絨美術大学に通う2年生のカズナリミヨシくんといって、おっと、いつも一成くんが自分のことそう言っているから間違えてしまった。本名は三好一成といって、通称一成くんと私はそう呼んでいる。
そして、これまた友達にはびっくりされちゃうのだけれど出会いは合コン。
私は昔から人付き合いが苦手で合コンなんてものに一ミリも興味なんてなかったのだけれど、同じ大学兼バイト仲間のお友達に引きずられるように連れて行かれ、人生初の合コンというものに参加することに。そこにいたのが一成くん。
初対面は明らかにこの人チャラ男だ、危険、怖いと思って即座に関わりたくないバリアを張っていたのだけれど、そんなバリアをものともせず彼はかいくぐってきて、話をするようになって、実は根は真面目のしっかりした人なのだと気づいた時には落ちてしまっていたみたい…。
その後一成くんからのお誘いで最近人気のパンケーキ屋さんに行った帰り道、告白されたときはとてもびっくりした。でもその姿勢がすごく真剣でこれがあの一成君?と思ったほどだ。
それでも自分の年齢イコール彼氏いない暦になることが気になってしまい、付き合うのがはじめてで大丈夫かと尋ねたところ、
「そんなこと言ったらオレも苗字ちゃんが正真正銘、初カノだよん」
なんてまさかの回答が返ってきてびっくりしたんだっけ。
意外すぎる。だって一成くんのコミュ力の高さは本当に異常だから。誰とでもすぐに打ち解けて仲良くなるし、流行りものにも敏感だし、中学生くらいからませて彼女とかつくってそうだもの。
けれど、そんな私の心のうちを読んだのか次に一成くんの口から発せられた言葉が嬉しすぎて。
「オレたち付き合っちゃうんだよねーやばー!初カノとかテンアゲ」
「苗字ちゃん記念に写真とっちゃおー!ってかオレ、初カノは絶対自分から好きになった人って決めてたんだよねー」
なるほど、なるほど。こういうギャップに私は惹かれちゃったんだなあと自分の気持ちをはっきり自覚した日でもあった。
そんな出会いから付き合いをはじめてようやく始めの1ヵ月を越えたところ…。付き合うって具体的に何をしたらよいのか分からずあっという間に1ヶ月が経ってしまった。
大学は同じと言えど広いキャンパス、私は油絵専攻で日本画専攻の一成君とはなかなか会えない。一応LIMEでおはようとおやすみを自分から言うように頑張っているし、一成くんはレスポンスが凄く早いから毎日連絡とることはできている。
はず…
だったのに、
ここ5日ほど一成くんからの返事がぱたりと途絶えてしまっている。
今まで日に何回もスタンプやらなんやら日常のことを送ってくれたLIMEが寂しい。
いつもだったら、おはように対しておはピコが返ってくるはずなのに。おかしいなと思いつつも何かあった?どうした?と自分から連投するのは何だかガッついているみたいでそんなこんな今日の5日目を迎えてしまった。
自分から連絡できない小心者なのに、一成くんのことが気になってインステをチェックしてしまう私は本当にダメだと思う。
でも開くと一成くんのはインステは更新されていて、大学の先生らしき人と格式高い料理屋へ食事に行ったという最新記事を発見してしまった。
そこで食べたであろう高級和食の写真がアップされた日付を確認してみたところ、3日前の夜だった。
胸の奥がきゅうっと萎む。LIMEは返してくれないのにインステはアップしているなんて。
でもしょげてばかりはいられない。私は年上彼女なんだ、彼氏からちょっと連絡が途絶えただけでなんだというのだ、こういう時に自分がしっかりしなくてはと思い、バイト帰りに電話をかけてみようと心に決めた。
バイトをしていても頭の中は一成くんのことばかりで、今日はレジ誤差も出してしまい本当についていない。
ようやくバイトが終わり更衣室で携帯を即座にチェックをしたけれど通知はやっぱりない。持っているスマホが重い。
けれど直接電話で話ができればきっと何か分かるはず、着替えも早々身支度を整えると店の搬入口を出ると同時に通話ボタンを押した。
ぷるるるる― 5回程コールしただろうか。
通じない。
でも、あと1コール、あと1コール。スマホを耳に押し当て今か今かと耳を欹てて待つ。
ぷっ。耳元に音が入ってくる、でた!繋がった!と思ったのも束の間、
「もしもし−
「あ、こんばんは名前さん。椋です!」
「えっ」
突然電話口に出たのが一成くんではなくて動揺してしまった。
この椋くんと言うのは、一成くんの寮のルームメイトである向坂椋くん。なんでも一成くんは劇団に所属しているらしく、その劇団の寮に団員の人たちと生活しているみたい。
この間大学の学際の時に一成くんの劇団員の方が沢山展示を見に来てくれたのだけれど、その時お知り合いになって以降一成くんの口から劇団の人たちの名前がよく会話に飛び出すようになった。
ネーミングセンスがおもしろくって、ついつい一成くんから聞いている間に私もあだ名で呼ぶようになってしまった。
「むっくん?一成くんはどうしたの?」
「えへへ、お久しぶりです。すみません、カズくんは今部屋に居るんですけど手が離せないからって」
「あ。そ、そうなんだ」
「何か伝えたいこととかあったらボクから伝えておきますよ」
どうして。
疑問が一番に浮かんでしまったけれど。そう言われてしまったら何も言い返せない。それにしつこく電話を繋いでくれなんて言えないし…。
「あ、ありがとう。でも特に用事という用事はなかったから大丈夫だよ、」
頭の中の思考が追いつかなくて。私はむっくんにそう言うと電話を切ってしまった。
何がなんだかわからない。もしかして自分は一成くんに避けられているのだろうか。でも原因が全くと言っていいほど思いつかない。
ガチャリ。自分のアパートに帰宅するとお風呂場へ直行する。着ていたものをばっさばっさと脱ぎ捨てて少し熱めのシャワーを浴びた。
熱いお湯とは別の冷たい水が頬を流れたけれど気にしない。ザーザーというシャワーが雨みたいだ。
恋をして付き合ったら、彼氏ができたら、デートをしたり抱きしめあったり、キスをしたりってのに憧れていた。
でもね、そんなんじゃない。今はとっても一成くんと心を通わせたい。もっともっと貴方の思っていることが知りたい。
一成くん、君は今何をして何を思っていますか。その中に私はいますか。
シャワーを浴び終えても目から出る水は洗い流せなくって。とにかく今日は早く寝よう、寝たら少し落ち着くはずだ。感情を無理矢理押さえ込むように膝を抱えて自分を抱きしめながら眠りについた。
to be continued...
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