君に重なる未来



 君のために私は生まれた。


 光のあふれた世界で、世界の一部から分かたれるようにしてアストラルは生まれた。
 彼が生まれたからこそ自分は生まれたのだと、その瞬間から理解していた。
 生を受けた瞬間からアストラルは完全であり、一分の隙もない者として存在していた。
 彼が生まれたから私が生まれたのに。
 そう思いながら、次元を別にする対の存在である彼を見た。
 対、ではないのだろう。
 彼がいるから自分がいる。
 彼に従属するものとして自分がいるのかもしれない。
 そう思いながら彼を見ると、理不尽であるとすら思えた。
 自分は彼に従属する存在でありながら、彼よりも完璧な存在であったから。
 生まれたばかりの彼は『人間』という種族の特性上、何も知らず泣くことしかできない未熟な存在として生まれていた。
 彼は少しずつ世界を知り、己を知り、夢を描いていく。
 
「何故、あのような存在が『ゼアル』の力を得るのだろう。」

 世界を救う力、なのになぜ、アストラル界のもの単体で得ることができないのか。
 彼は大きくなり、成長していく、体も、心も。
 そう、心も。
 アストラルには『成長』という概念がない。
 あるとしたら『変化』である。
 不完全であるということは、完成のために成長し続けるという意味である。
 しかし、人間には完成は存在しない。
 成長し続ける、限界のない生物。
 初めて、恐怖を感じた。
 なんという生物なのだろう。
 未熟で幼く、それでいて、限界の先の力を手に入れる事ができる。
「私が・・・不十分なのだな。」
 彼は成長していく、しかし自分に成長はなく、こうして時を待つまで世界をさまようだけである。
 今は彼のほうが未熟であっても、いずれ彼は自分を超えた存在になるのだ。
 なんという皮肉だろう。
 完全であるがゆえに、自分は彼にふさわしい存在ではないのだ。

 人間で言う挫折なのかもしれない。
 しかし、使命は果たさなければならない。
 自分は彼にふさわしい存在に変化しなければならない。
 その時から、アストラルは動き始めた。
 精密に積み上げられるピース。運命の欠片。
 
 もしくは、自分自身に仕掛ける罠。

 時が近づいていた。
 人間的な外見年齢がアストラルと近づいた彼を見る。
 精神に広がるざわめきは、人が恋と呼ぶものに似ていた。
 未だ幼く、デュエルの腕も未熟な彼に、アストラルは『愛しい』というにふさわしい顔で目を細めた。
「君に、なんと言おう?」
 私の中に何を残しておこう。
 君を感じるのにふさわしいものはなんだろうか?
 物理的肉体が必要だろうか?
 この知識は必要だろうか?
 君を生まれたときから見てきた、この記憶は必要だろうか?
 何も、いらないのだろう。
「私を構成するもの、私の名と、デュエリストとしての知識。」
 他は奪ってしまおう。
 それはなんと不完全で、弱く、あいまいな存在なのだろう。
「十分だ。」
 十分に不完全だ。
 私は彼とともに成長し、彼にふさわしい存在となるだろう。

 そして


 今、この想いを失ったとしても。


「私は、何度でも君に惹かれるのだ。」
 


公式で真実が明かされそうなのでその前に!
こんな妄想をしていましたよというネタ。
(110913)


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