幸福な結末


人の関係は常に悲劇

生別にしろ死別にしろ

別れの未来しかないからだ

置いていくのか置いていかれるのか二つに一つ


ならば これこそが幸福な結末なのかもしれない



 自分を見下ろす金の瞳。
 出会った頃には水晶のように透明だった瞳に、今は悲しみの色が見える。
 彼はこの世界でたくさんのことを学び、自分もまた彼からたくさんのことを学んだ。
 二人は常に傍にあり、同じ景色を見てきた。
「アストラル。」
 彼の名を呼ぶ。
 みぞおちのあたりから胸全体に、重みのある熱さが広がった。
「好きだよ。」
 愛しているでは違う気がした。
 だから、好き。
 氷が溶ける様に、彼の瞳に暖かい色が浮かぶ。
「私もだ、遊馬。」
 アストラルが手を伸ばすのにあわせて、遊馬も手を伸ばす。
 二人の指が絡まり、そしてすれ違う。
 身体が触れることができなくても、心は触れるのだと、今なら確かに信じられた。
「行こう。」
 遊馬は真っ直ぐ顔を上げ、宣言する。
「終わらせるんだ、俺たちで。」
 最後の戦いが目の前にあった。
 勝敗は…わからない。
 たとえ勝ったとしても、アストラルとは別れの結末が待っているのだろうと、漠然とした確信があった。
 自分の世界に帰ったアストラルがどのようにそれから先を生きるのか想像もできない。けれど、二度と会えない未来を思い浮かべると、心臓から体中に広がるヒビのようなものを感じた。たぶん、それが一番まともな未来だとわかっていながら、遊馬にとってその結末はどうしようもない悲劇でしかないのだ。
 もし、負けたなら?
 アストラルは消滅し、遊馬もまた魂を失うのだろう。
 
 二人、同時に―――――――

 生別であれ死別であれ、別れが全て悲劇なら、この先にどんな未来が待っていても怖くない。
 二人同時に息絶えるなら、どちらが置いていったわけでも、置いて行かれたわけでもない。
 

 君との別れを知らずに知る結末ならば、これ以上ない幸福なのかもしれない。
 
 
 ただ――――
 悲劇でもかまわない。
 と、叫ぶ自分がいる。
 振り返り、見上げる。
 視線に気づいた金色の瞳の異世界人が、薄く笑う。
 人によっては冷淡にも見える笑顔が、この上もなく優しいものだと、遊馬はもう知っていた。
 悲劇でもかまわない。
 自分の魂を支払って、彼が助かるのなら、そんな結末でもかまわなかった。
 勿論、互いの人生に帰る永遠の別れでも。
 
 悲劇でかまわない。

 だから、生きて。
 
 時の流れの中で、忘れられてもいいから。


 甘い誘惑のなかに幸福な結末がある。

 それを望むからこそ、心から悲劇を願う。





 遊馬は知らない。
 彼の願う悲劇は、彼の相棒が願う悲劇でもあったことを――――

 




リハビリ、アス遊はこんなイメージです。
(120812)





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