流星群の夜に 6


 目覚めはあやふやで、宙に浮いている気分だった。
 さらりとしたシーツの感触がある。
 どうやら眠ってしまったのか気を失ってしまったのか、意識がない間にシーツをかえてくれたのだろう。それどころか、汗のべたつきももっと恥ずかしい液体の名残も感じないところをみると、そういった後始末までしてもらったのだとわかる。
「水、飲むか?」
 ベッドサイドに腰を降ろした遊星が、氷の入ったグラスを片手に声をかけた。
 揺らされたグラスの中で、カランと小さな音が鳴り、遊馬はひどくのどが渇いている事を自覚した。アレだけ声をあげたのだから当たり前だろう。
 アレだけ、と思い出して、急に羞恥心が膨らむ。
「あ、はいっ」
 慌てて答えながら、遊馬は目を逸らした。
 遊星の顔を正視できない。
 けれど水は欲しくて身体を起こして手を伸ばそうとして、がくりと崩れ落ちた。
「あ・・・あれ?・・・」
 腰から下に鈍い痛みがあるのはまだしも、内腿がガクガクと振るえとても力が入らない。
「・・・ムリをさせたか?」
「えと、大丈夫です。ちょっと休めば。」
 横になっているだけだと思っていたが、色々なところに力が入ったり普段使わないような筋肉を使う動きをしたんだろう。
 そんな遊馬の様子を見て、遊星は遊馬の背を支えて身体を起こし、グラスを渡してくれた。
 密着した彼の身体から微かな清涼感のある香りがして、事後に風呂で汗を流してきたのだとわかる。
 その前に風呂に入ったし、身体は拭いてもらったようだけれど、自分は汗臭くないだろうかと気にかかった。
「それじゃあ、とても歩けそうもないな。」
「え、はい?」
 水を一気に流し込んで、ふうと一息ついてから、遊馬はいぶかしげに答えた。
「まだ少し早いけれど、寒くなる前に行こうか。」
「え?」
 胸の下に落ちたシーツを肩まで上げてくるくると巻かれ、遊星に抱き上げられた。
 どこへ行くというのか?
 遊星は階段をもう一度上がり、屋上へ向かった。
「星、見るんだろ?」
 言われてから、そういえば、星を見るのを理由に泊まったんだったと、やっと思い出した。
 屋上は、夏が近づいたとは言え日が暮れると肌寒い。
 このあたりは普通の民家しかないせいか、もともと町の光が多くない。
 夕暮れ時は既に終わり、太陽はその名残だけを残して地平線の向こうに消えてしまっていた。最後の光を飲み込むように宵闇が迫る。
「もう少し暗くなったほうが見えそうだな。」
 遊星はすとんと遊馬を抱いたまま胡坐を組んで座った。
 星を見上げる遊星の横顔を窺って、慌てて遊馬も空を見上げた。
 恥ずかしい。
 どうしても、天井を背景にした交わりの最中の遊星の顔が思い浮かべられてしまう。
 特に彼の瞳を真っ直ぐ見られない。
 あの、独特の深い色合い。
 遊馬はそこまで考えて、今目の前に広がる色に気付いた。
 夜はすぐそこまで迫っていた。
 刻一刻と暗くなり、その代わりにいつの間にか星の光が増えていく。
 すでに夕焼けの赤はなく、青と紫の中間のあいまいで深い色が広がる。
 遊馬は魅入られるように空の色を追った。
 星は、彼の瞳を彩る光のようだった。
「あっ!」
 その時空の半分ほどを横切るように光が流れた。
「すごいな、まだだいぶ明るいのに、あんなによく見えるなんて。」
 遊星も感嘆の声を漏らす。
 光の名残を惜しむように見上げていると、今度は少し小さな光が流れた。
「また!」
 遊馬も思わず嬉しげに声を上げた。
 同時に空を指差して、はらりとシーツが落ちた。
「あんまり暴れるなよ、風邪ひくぞ。」
 遊星はくすくすと笑いながら、もう一度念入りにシーツを巻きつけると、遊馬を暖めるように抱き寄せた。
 至近距離で見る遊星の淡い笑顔に、今度こそ本当に遊馬の顔は真っ赤に染まった。
 鼻の上までシーツにうずめながら、暗さで顔の赤さがばれなければいいのにと遊馬は願った。
 うつむいてしまった遊馬は遊星に促されて、もう一度空を見上げた。
 空、この、日が暮れるまでの一瞬の空を。
 遊馬は、今夜見た夜空を一生忘れないだろうと思った。 


 彼の瞳の中を流れる 星屑の光を 




書き終わってから、遊星のカードを思い出して、まるで狙ったかのようだと思ったわけです。
導かれたのか・・・主人公補正恐るべし・・・。
楽しかったです!さきいかさんありがとうございました!
(110620)


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