第四の太陽 1

※タイトルの通りマヤ神話における第四太陽の時代を書いています。
マヤより数千年古代という設定ですが文化的にはマヤアステカが混ざったような時代です。アス遊でベク遊です。






 どちらを見渡しても、遠く緑の密林が広がっている。
 足元には開けた土地。
 町と人々の暮らし、畑、そして、うっそうと繁る木々の何倍もの高さを誇る、白亜の神殿。
 神に捧げられた大ピラミッドは全て白い漆喰で覆われ、遠くからでもキラキラと輝いてみえた。緑の中に点在するその輝きに目を細めながら、ユウマは足元の白い階段を踏みしめた。
 このピラミッドの上には神が座す。
 ようやく頂上まで登ると、ユウマは入り口の石の影からそっと中をうかがった。
 神官たちがいない時間だとはわかっているが、念には念をいれるべきだ。
『ユウマ、そこにいるのだろう?今は誰もいない』
「アストラル!」
 弾んだ声を上げて、ユウマは暗がりに足を踏み出した。
 頭に響くような不思議な声でユウマを招く神の名はアストラルと言った。
 だが、それは神官たちには呼ぶことが許されない名だった。
 神が降臨された時、そう名乗ったのだが、皆はそれを神の愛称のようなものだと理解したのだ。恐れ多くも、人間ごときが呼んでいいものではない。

 神は、ケツァルコアトル、羽毛の蛇、そう呼ばれる。

 青く透き通る身体を持つこの神は、伝承の通り生贄の血を拒否した。神が受け入れた捧げ物は、花と果実それから香だった。だからこの神殿の中は森の中に咲く鮮やかで汁気の多い重く大きな花々の香りと、よく熟れた果実のあまい香り、頭をしびれさせるような最高級の香の香りで満ち満ちていた。
 灯りがあるとは言え薄暗い神殿の中、神の姿が青く輝いて浮かび上がる。
 花々に囲まれて青く輝く神の美しさに、ユウマは感嘆のため息を吐いた。
『どうした?』
「ん?なんでもない。それより、カードの続きを教えてくれるんだろう?」
『せっかちな奴だ。まだ来たばかりだと言うのに』
「だって、俺がここにいられる時間は限られてるし」
『デュエルもいいが、私はこの国の様子がもっと聞きたいのだが』
「デュエルのあーとーでー」
 自由に動くことができない神は、ユウマから町の様子を聞きたがった。
 何かを、それから誰かを探しているのだという。
 だから、ユウマは話をはぐらかしたがった。
 もし、目当てのものを見つけてしまったら。神は去ってしまうだろうから。
 本来なら、ユウマは羽毛の神に拝謁するべきではない存在だった。
 だが、人々にデュエルを教えたと伝えられる伝説の神が神殿にいるのに、我慢できるわけがない。警備兵や神官の目をかいくぐり現れたユウマを見たとき、神は怒るどころか神官たちが話さないような町の様子や人々の事をしきりに聞きたがったのだ。
 だから、神が知りたいという情報を教える代わりに、こうして直接デュエルを指導してもらえる事になった。
 もう一つ、アストラルという名前も、そう呼ぶ許しを得たのだった。
 誇らしいと同時に、後ろめたい思いも感じながら、ユウマはアストラルと神の名を呼ぶ。
「あー!また負けた!」
『君は目先のものを見すぎる。もっと相手の手札まで読むべきだ』
「そんな難しい事できねぇし・・・・・・やばい!」
 今日のデュエルは思いのほか時間を食ったようだった。
『次回はデュエルの前に話を聞くとしよう』
 あきれてそう言うアストラルにごめんなさいと謝って、ユウマは神殿を飛び出した。
 見張りの隙をついて忍び込んでいるのだ、出入りに使える時間は限られていた。
 丁度見張りの交代で上への注意がおろそかになる時間しか、見晴らしのいいピラミッドを登り降りするチャンスはないのだ。警備の目を気にしながらすばやく階段を下りると、ユウマは整備された道ではなく密林のなかを駆け抜けた。
 何度もこの道を走っているから、走りやすい場所はわかっていた。
 狩人なのか何かを収穫に来た人なのか、誰かがツタや下草をかりとっていてくれるおかげで、ユウマはこの道を楽に駆け抜けられた。
 細い獣道のような道も途中で終わり、その先はとても走れるような森ではなくなっている。だが、何度もユウマが通ったおかげで、草木をかきわけるようにして、通れないこともなかった。
 そうしてしばらく進むと急に視界が開けた。
 目の前には石造りの大きな建物がある。
 石と草とで作られた民家とは違う、貴族の邸宅や神に捧げられた建造物に使われる様式だった。
 草が刈られ整備された庭を抜け、建物に入ると、ユウマは着ていた服を脱ぎ捨て新しいものを身に着けた。上手く走っても服が汚れてしまうのはどうしようもなかった。
「ユウマ様、お気持ちはわかりますがお立場をわきまえくだされ」
 丁度着替え終わった頃部屋に入ってきた初老の男が、呆れたようにそうたしなめた。
 ユウマがどこへ行っていたか知らなくても、草のシミのついた服があってはごまかしようもなかった。
「すみません・・・・・・」
「姉君にお会いになられたのですかな?」
「・・・・・・え、あ、はい」
「御家族のことはご心配なきよう」
 たしなめるようでありながら、強く禁止するわけでもない。
 また外出してもかまわないと暗に告げる気遣いが嬉しかった。
「ありがとうございます神官長様」
「さて、ユウマ様が留守になさったおかげであの方の機嫌が悪うございます。神殿へ登られます前にご挨拶をなされては?」
「は、はぁ・・・・・・」
 これには遊馬は苦笑した。
 あの方はこの帝国を統べる帝王の息子、次代を継ぐ方なのだが、何故かわからないが遊馬を気に入っている。からかっているのかわからないが、やはり少しは気に入ってもらえているのだろうか?
 二人共に同じ神に仕えるお役目をいただいているのだ、できれば仲良くやりたいものだった。
 ユウマは着替えたばかりの服を脱ぎ、身を清めて新しい服を身に着けた。
 香を捧げ持ちながら恭しく歩く神官の後に続き、長い回廊を進むと、ひときわ大きな部屋の前で神官は跪き深く頭を下げた、ユウマはそのまま室内に歩み入る。
 明り取りの窓が大きくとられているとは言え、室内に入ると薄暗さで世界が狭まったような印象をうけた。民家ならこの明るさがあれば灯りはおかない。だがここではちがった。奥まった場所に置かれた大人でも悠々と横になれる長椅子は、厚手の布で覆われて座り心地がよさそうだった。そこにもたれるようにして、目の前のテーブルに盛られた房状の果実を一粒ずつむしっては床に落としている。
 彼は室内に入ってきたユウマに気づくと顔を上げ、大きなため息を吐いた。
「遅いぞ、刻限は迫っている何をしていた」
「すみません少し出かけていて」
「改まるな!まったく、お前は王にすら膝を折る必要がないのをまた忘れたのか?」
「わかって、る・・・・・・レイ」
 雲の上と思っていた方々に、敬語すら使う必要がないと言われる。
 遠く離れた場所で政治に不満を言っていたような時はどんな風にでも呼べたのに、いざ対等であれと言われると、どうにも尻の座りが悪かった。
「それでいい」
 満足げに笑う王子。
 レイと言う名の第一王子は年はユウマと大差ないが、王の嫡出子に他に男がいないために、次代の王として揺るぎがない。
 二人は、入り口に控えていた神官の先導で、堂々と白亜のピラミッドを登る。案内の神官が脇へ退き、神殿の中にはユウマと王子だけが入った。
 薄暗い石の建物の中には、灯りに使われる獣脂の燃える匂いがかすかに漂う。湿った空気の中、圧倒的な質量を持つのは湿り毛を帯びた、生臭い、血の香り。
 自然と、背筋をつめたいものが流れた。
 この神は恐ろしい。
 奪う神であり、力を持つ最高神でもある。
 やがて、奥まった場所に、闇がうずくまっていた。
 もやのように蠢く闇。
 そしてその真ん中にある紅い二つの光。

「テスカトリポカ、わが神よ・・・・・・」
 

 そう語りかける王子の声は、恍惚としているようですらあった。
 
 
 







イキオイだけでかきましたー!
アステカというか、もっと過去の時代だけど同じような時代があったんです的なお話です。
元ネタは彩霞さん、もっと言えばアステカ文化的な部分も教えていただきました。
が、生かしきれている気はしない。

(130501)


ベクターの位置を修正の上、改めてUPです
(130528)


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