深海魚の憂鬱


 欲しい、などと言わない。

 欲して、そして掴めずに終わる事を知ってしまったから。


 深い海をゆっくりを泳ぐように、心に波を立てぬように。
 そうやって生きてきた。
 時折、浅瀬でヒラヒラと泳ぐ魚たちを食らい、蹂躙するのが薄暗い楽しみ。
 いつもの浅瀬で出会った小魚だと思った。
 アレは違う生き物だった。
 アレは陸を駆ける生き物か、もしくは、空を翔る生き物なのかもしれないと、今ならば思う。

 
 机の上にはカードの山、積み上がった山から拾い出し、重ね、崩し、また探る。
 思い出すのはあの時、迫る双剣の金色のきらめき。
 カードを選び出し、モンスターと魔法トラップとの比率を再度熟考する。
 よく切って、カードをめくる。
 そこにいる敵を想像し、魔法を、トラップをかけ、モンスターを戦わせる。
 カードテキストを確認しようとして、文字の読みずらさに気付いた。
「ちっ・・・」
 凌牙は我に返り、手札を机に落とした。
 軽く握った拳を額にあて、何故こんなことをしているのかと己に問う。
 デュエルはやめたはずだった。
 もう二度とカードを持たないと誓った、いや、消極的に諦めたはずだった。
 空を翔る事を諦めて、それでもダラダラとカードを握っていた自分を断ち切った、九十九遊馬との一戦。
 失ったのは『未練』だったのかもしれない。
 学校にもまともに行かなくなった凌牙は昼の時間をもてあまして、たちの悪い連中と付き合うようになった。

 まぶしくて

 まぶしくて まぶしくて

 苦しくて

 もっと深く暗い海の底へと身を隠した。

「仲間だからだ!」
 違う。
 違う違う違う違う。

 そんなものになりたいんじゃない。
 

 敗北した遊馬が、見上げる瞳。
 赤い、透き通る瞳が揺れている。
 ナンバーズを使って負けるとは思っていなかっただろう?
 一度壊して、何故か元に戻ったペンダントに手をかける。
 お前にとって俺は、一番大事なものを賭けるに値するものだったのか?
 それとも、負けるつもりがないからこその賭けか。
 遊馬が息を呑むのがわかった。
 信じられないという、その表情が、全てを物語っている気がした。

 この鍵を砕けば、仲間と言ったその口から憎しみの言葉を吐くだろうか?

 
 それでも、やはり、自分の求めるものとは違うのだ。


自分の中での整理用に書いたのでちょっと散文的です。
シャークさんデュエルはやめたといいながら対ナンバーズデッキ組んでたり、デッキ持ち歩いていたり、意識しまくりで可愛いです。





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