仮想空間 後編




「知るもんか!!」
 遊馬の叫びは、宣戦布告だった。
 絶対に、負けない。
 目の前にうごめくモンスターを睨み、強く拳を握った。
 その時、再びの轟音と共にモザイクブロックの地面が崩れた。
 バランスを崩して背中から落ちた遊馬は、訪れるであろう衝撃に身を硬くしたが、予想外に柔らかなものに受け止められた。
 何故?自分を受け止めた柔らかなものに手を伸ばすと、やわらかくて弾力のあるものに触った。指が沈み込むほどの柔らかさの向こうに、硬い弾力のある層があり、何より特徴的なのは表面を覆うねばつく粘液である。
「うわ!気持ちわりぃ!なんだこれ!」
 こんな感触今まで知らない。
 振り返った遊馬の目に、割れた地面の中からうねうねとうごめくものと、その向こうに硬い殻をもったドリルが見える。
 正面のモンスターの他に、もう一匹いたの気付くと、遊馬はあわてて身体を起こし、ぬるつく表面を蹴って飛んだ。
 勝てる見込みがない以上、選択肢は逃げるしかない。
 宙を舞った身体ががくりと揺れ、失速する。
 落ちると思った瞬間世界が逆さまになったまま止まる。
 そこでようやく、片足に絡みつくモンスターの腕に気付いた。
 一抱えほどもあったイカの様な腕は、ロープのように細く伸びて遊馬を宙吊りにしているのだ。
「くそ!離せ!離せよぉ!!」
 自由な方の足できつく絡みつく腕を蹴りつけるがびくともしない。
 視界に暗い影が落ち、遊馬をさらに恐怖へ叩き落した。
 無数の腕が、遊馬の周囲をうごめいていた。
「やっ!あああああ!!!やめろぉっ!」
 手に身体に、次々にモンスターの腕が絡みつく。
 太くなったり細くなったり、ヒルがはいずるような動きでぬめる粘液に覆われたものが遊馬の肌を這う。
 裂けたシャツから地肌をうねるものに、吐き気を覚える。
「んっ!・・・な?なに?」
 胸を這われた瞬間、ビクリと身体が震えた。
 触られたところがじんじんと痺れてる。
「うっそだ!」
 遊馬はこの仮想空間の真の意味を唐突に理解し、狂ったように暴れ始めた。
「やだやだやだいやだぁー!!!!!」
 いくらもがこうとも、モンスターの腕はしなるばかりで振りほどくことはできない。それどころか、肌を伝って今だ布に覆われていた下半身に、服の間から忍び込んで来る。
 細くした先端を服と肌の間に差し入れ、ぐにょりと太さを増す。
 耳障りな音を立て、厚手の生地が裂けた。
「っひあ!」
 自分ですらろくに触ったことのないものに、ぬるつくものが絡みつく。
 数回しごきあげられるだけで、遊馬の知らない快感が背筋を駆け上がり、脳ではじけた。
 作られた感覚だからこその、快感。
 全ての感覚は、遊馬の身体が作り出したものではない。
 身体を飛び越えて、製作者が『そう』作り出した感覚が遊馬の精神を侵す。
「あ・・・アス・・・」
 アストラル!そう叫びそうになり、遊馬は唇をかみ締めた。
 ナンバーズを失ったところで、遊馬はアストラルが現れる前の自分に戻るだけの話なのだ。強力なナンバーズモンスターは惜しいと思うが、かといって、自分自身を引き換えにしてまで欲しいものではない。
 犠牲にすればいいのだ。
 こんな、ろくでもない世界に巻き込まれるのならば。
 他でもなく遊馬には、その選択が許されている。
 けれど―――
 かろうじて自由のきく片手を、空に伸ばす。
 夕焼けのオレンジが青空を半分染めている。
 どれだけの時間がたっているのかわからないが、本当の夕方がこんなに長く続くわけがない。
 沈まない太陽なんてあるわけがない。
 この世界はニセモノ、この苦痛はニセモノ。
 アストラルは、遊馬以外の誰にも認識できなくとも、ホンモノなのだ。
 涙が溢れた。
 辛い、苦しい、逃げ出したい。
 それでも、アストラルを消滅させられない。
 ならば耐えるという選択肢しか残っていない。
「んあっ!!」
 細く太く、自在に動くものが、遊馬を串刺しにした。
 信じられないところに、信じられないものが入っていく。
 何より信じられないのが、全身が震えるほどの痺れがそこからもたらされる事。
「んんっ!あ・・・はっ・・・ぅあっヤめ・・・」
 この身体で、遊馬の自由になるのは口と目くらいのものだった。
 喘ぎ、涙をこぼす。それだけ。
 奥まで潜り込んだモノは身体の中をさぐるようにあちこちを動き回り、遊馬はその動きに合わせて声を上げた。
 ずるずると引き出される感覚に、身を震わせながらも、ほんの少しの安堵を持ったのもつかの間、ぐねぐねと蠢くままの塊が容赦なく遊馬を貫いた。
 引き出し、突き入れる。
「ああっ・・・んっ、ぅぅ・・・ふあっ!・・・あぅっ!!」
 繰り返される動きに押し出されるようにあふれる声を止めることができない。
 遊馬の身体を腕の一本がえぐりながらも、他の腕は絶え間なく身体を這い回った。
 中でも遊馬の中心を責める腕は、蠕動を繰り返しながらも繊細に動き回り、ぐちゅぐちゅと湿った音を立てる。
 モンスターの粘液だけでなく、先端からあふれる透明な雫が、永遠に沈まない夕日にてらてらと光る。
「あっあああああああっ!!!!!」
 悲鳴と共に遊馬の背がしなやかに反り、吐き出された白濁がモンスターの上に滴った。
 意識が白くかすむほどの情感の波に飲み込まれながらも、逃げることは許されない。
 一度達しても容赦のない責めは終わらず、遊馬は喘ぎとも嗚咽ともとれる声と共に、とめどなく涙をこぼした。
「あっ・・・ひっぅ・・・ひぃぁ・・・んっ・・・」
 そこからの記憶はあいまいだった。
 限りなく長い時間だったのか、それともほんの少しの時間だったのか。
 もう、狂う。
 自分がこうして犯されるのを望んでいる気さえしてきた。
 ただ受け入れ、喘ぎ、白濁を吐き出す。
 何度目かわからない絶頂に追い上げられ、悲鳴のような喘ぎと共に再び欲を吐き出した瞬間、世界が回った。



 荒い息が聞こえた。
 それが自分の呼吸だと理解するのに少し時間がかかる。
 熱が絡みつくように身体が熱く、ベッドに押し付けられたままの背中はじっとりとぬれているのがわかる。頬を伝い落ちるのは涙なのか汗なのか、髪の中へ流れ落ちるのが気持ち悪い。
 装置をはずされた目には細かい装飾が施された天井が見えた。
 視界の端に男の姿が見える。
 窓の外からの光に濃い影が落ち、どんな表情をしているのかも読み取れない。
 手と足に、人の手を感じた。
 遊馬の手足の戒めを、他の人間が解いているのだ。
 男の仲間と言うよりは、部下や使用人に近い感じだ。
「疲れただろうから、休んでから帰りなさい。それと・・・」
 男はベッドサイドに名刺のようなカードを一枚置いた。
「ナンバーズが不要になったら連絡するといい。高く買わせてもらうよ。」
 何を言っているのかわからない。
 いろいろなものを踏みにじったやつに、連絡などするものか。
「今はわからなくても、いずれわかる。君にとってナンバーズは、いや、デュエル自体『不要』なものになるのかもしれないよ・・・」
 暗くてわからない。
 けれど、男は笑ったように見えた。
 男達が部屋から出て行くと、静まり返った部屋の中に空調の音だけが響いた。
「オレの、デッキ・・・」
 大切な父親の残したカードが入ったケースは、枕元に落ちていた。
 今はこの中にナンバーズエクシーズは入っていない。
 遊馬は首に下がったままだった金の鍵を握ると、叫び続けたためにかすれてしまった声で、相棒の名を呼んだ。
「・・・もういいぜ、アストラル。」
 青白い光が渦を巻き、はじけると、そこに馴染んだ姿が現れた。
「遊馬、大丈夫か?」
「だいじょぶ・・・別に、たいしたことされてないから。ただ、疲れちゃった・・・」
 深く、深く息を吐き出し全身の力を抜く。
 手や足の普段使わないようなところが、筋肉痛のように痛み始めていた。
 仮想世界での出来事だからといって、現実の身体が反応しないわけじゃない。
 手首や足首の痛みから、暴れたりもしたんだろうと想像できた。
「早く、帰らなきゃ、姉ちゃんに怒られる・・・」
 身体の熱が引いてくると、足の間に感じる濡れた感触が気持ち悪い。
 ああ、外まで染みているだろうか。
 人に見られずに家に帰らないと、そう思いながら見上げると、わかりずらい表情の中に明らかに心配の色を浮かべて、アストラルが見下ろしていた。

 まあ、いいや。

 アストラルが無事だったことを、今は素直に喜んでおこう。
 遊馬が笑うと、アストラルの表情も和らぐ。



 心の奥に流し込まれた、黒い悪意の存在を、遊馬はまだ知らなかった。






手段のために目的を選ばないのがエロ展開というものです。
ナンバーズの行方とかどうでもいいからとりあえず触手を絡めておきたい。
このあと凌牙とデュエルすることがあって、ドリルバーニカルを召喚されてガタガタ震える凌遊妄想まで余裕でした。
そんなわけで、もうちょっと触手感の高いモンスターもいるけれど、あえてドリルバーニカルたんでお願いします!
(110523)





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