「結婚しよう、緑川。」


そう言って俺に花束を差し出すヒロト。
それはヒロトの髪のようにとても綺麗な、深紅の薔薇。

俺はそれを受け取った。


「わ、綺麗な薔薇、」
「緑川のために特別に用意したんだよ。で、返事は?」

返事?あぁ、さっきの結婚がどうとかって言うやつか。


「あのなヒロト。男同士じゃ結婚は出来ないんだよ。
どっかの海外なら出来るかもしれないけど、俺達の住む日本じゃ無理なんだ。」

ヒロトってこんな常識を知らない奴だったっけ、と思いながらも丁寧に説明してやる。
確かヒロトは勉強が出来た気がするんだけど。


「そんな事愛には関係ないさ、なんなら外国に行こう。」

あれ、こいつって馬鹿なのかな。
それとも冗談?これ冗談?

愛には関係ない、なんて言われてもリアクションに困るよ。
しかも満面の笑顔で言われたし。



「あ、」


言葉を漏らしてから、何やらポケットを漁りだすヒロト。
なんだ、何を出すつもりだ、

「プロポーズにはこれが必要だよね。」

そう言ってポケットから出したのは、小さな赤い箱。
あれ、なんでかな。なぜか嫌な予感がする…っていうか嫌な予感しかしないんだけど。

「ほら、」

と言いながらヒロトはなに食わぬ顔で箱を開けて中身を俺に見せてきた。

…やっぱり嫌な予感的中じゃね?



「いやいやいやいや!!ほらじゃねぇよ、なんだよこれ!?」
「何って…結婚指輪だよ?」


そこには光輝く大きな宝石が丸々1つ付いた指輪があった。
どうしよう、キラキラしすぎてて目も当てらんない、直視出来ない。

と言うかこんな高そうな物をどうやって仕入れたんだ、中学生が買える額じゃないだろこれ。





「へぇ、ヒロトはこんな洒落た指輪なんか持ってるんだな。」


いきなり後ろから聞こえた声に、俺はびっくりして振り返った。
そして目に入ってきたのは、みなれた青の髪。

「風丸!」

そう、そこにいたのは風丸だった。
はたしていつから後ろに居たんだろう、怖いな。


「この指輪についてる宝石、もしかしてダイヤか?」
「そうだよ。風丸君には手を出せないようなとても高価な物だ。」
「確かにそうだな、このダイヤすげーでかいし。何カラットだよ。」


まじまじと指輪を見つめる風丸。
風丸君には手を出せない…って言うか、ほとんどの中学生が手を出せないだろ。

そんなことを考えていると、いつのまにか風丸が指輪を手に取っていた。

「ちょっと、それは緑川にあげる指輪なんだから貧乏人風丸君が気安く触っていいもんじゃないよ?」

そんなヒロトの嫌味に平然としている風丸。

「……」




次の瞬間、風丸は指輪をおもいっきり床に投げ捨てた。

指輪は可哀想な音をたてて強く床に叩きつけられた。
そんな惨めな指輪に追い討ちをかけるかの様に、風丸は自分の足を乗せてぐりぐりと踏みつけた。


「確かに手は出せないけど、足で踏むくらいなら出来るぜ?」

黒っぽい笑みを浮かべる風丸。
そんな風丸をヒロトは目を細めて睨む。
あ、これキレてるな、絶対。

まぁせっかくの指輪をこんな風にされたらたまんないだろうけど。


「貧乏人の妬み?見苦しいよ。」
「あれだろ、ダイヤなんてただの硬い石だろ?俺ならもっと実用性のあるものを緑川にプレゼントするな。」

いきなり自分の名前が出てきてびっくりした。
やめてくれ、心臓に悪い。


「…まぁいいや、また指輪買ってプロポーズし直すから、それまで待っててね緑川。今の中途半端なプロポーズは無かった事にして。」
「諦めろよヒロト、何度指輪買ってプロポーズしようが同じだぜ?そのたびに俺が指輪踏み潰して邪魔してやるからさ。」



火花を散らす2人の下――…
否、風丸の足元に転がる指輪からはもう輝きは感じられなかった。

それどころか悲痛な叫びを訴えている様に見えた、可哀想に。






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