※死ネタ





久しぶりに緑川とデートする事になって、俺はつい待ち合わせの時間よりも早く来てしまった。

待ち合わせ場所は、今から約1年前位に緑川に告白をした思い出の公園。
俺は公園のベンチにそっと腰を掛けた。


春とも夏とも言えないなんとも微妙な季節、強いていうなら初夏だろうか。

この公園の桜は既に8割程散ってしまっている。
まだ残っている2割はまるで散るのを懸命に耐えている様だ。


そんな風に思いながら桜を眺めていたら、いつの間にか待ち合わせの時間が過ぎていた。

緑川が遅刻なんて珍しいな、と思いながら携帯を開いて電話をかけてみる。

プルルルル…

無機質なコール音が耳に響いた。
けれど、何秒待っても緑川は電話に出てくれなかった。




ずっと桜を眺めて緑川を待っていた。
待ち合わせの時間から既に1時間が経過している。


でも、ぽかぽかした日だまりの中で散りゆく桜を眺めているのはなぜか自然と飽きなかった。
それに、愛する緑川の為ならいくら時間を割いたって構わない。


…と言ってもやはり、1人で見るよりは2人で見る方がいいに決まってる。

だから、何度も電話やメールをした。
けれどそのすべてに返事はなかった。

緑川の家まで迎えに行こうかとも思ったけど、入れ違いになっても困るから結局公園で待つ事にした。





「緑川、好きだ。付き合ってくれないか。」
「ヒロト…俺も好き、だよ。」
「…リュウジ、」


という感じで1年前、俺の告白は見事成功した。

確か可愛らしく頬を桜色に染めた緑川に優しく甘いキスをしてあげたっけな。
よし、今日もあの時みたいにキスをしてあげよう。

そんな事を考えると、自然と頬が緩むのを感じた。


プルルルル…

すると、突然鳴った俺の携帯。

緑川だ!とディスプレイの文字を見たが、残念ながらそこに示されていたのは晴也の名前だった。
少し落胆しつつも電話に出る。


「もしもし、どうしたの晴也?」
『ひ、ヒロト…っ!』

電話越しに聞こえたのはいつもの晴也の声では無く、恐怖に震えたか細い声だった。

何かあったの?と聞くと、晴也は言葉をつまらせた。
そんなに大変な事なんだろうか。

しばらく沈黙が続いたあと、意を決したらしい晴也がぽつりぽつりと話し始めた。


『……リュ、リュウジが、大型トラックに跳ねられて…!』


俺はすぐさま公園を飛び出した。






今、俺の目の前に映るのは。

かつてエイリア学園と名乗り、共にサッカーをしてきた仲間や瞳子姉さん、そして父さんだった。


皆は、涙を流しながら中央を取り囲んでいる。

風介はその中央にあるものにしがみつきながら声を出して泣いていて、電話をくれた晴也はそんな風介を抱き締めるかの様に寄り添って泣いている。

俺の存在に気づいた玲奈がこっちを見る目は、真っ赤に腫れていた。


「…ヒロト、リュウジに別れの挨拶を言ってやれ。」

玲奈は俺の背中を押し、中央へと向かわせた。

その中央にあった物。
いや、中央にいた人は――…



白い布を顔に掛けてベッドに横になっていた。

細く伸びる手足はスラッとしていて。
見慣れた緑の長い髪がベッドに散らばっている。

すると、風介がその白い布をゆっくりまくった。


その下にあったのは、愛しい愛しい恋人の顔。女の子みたいに可愛い顔。

つい最近まで楽しくサッカーをしていたであろう、本来ならば今頃俺とデート中であろう、輝かしい未来が待っていたであろう……



愛しい愛しい緑川。

皆は緑川の顔が露わになると、更にワッと泣きだした。

でも、なんでだろう。
俺は泣いていなかった、だって涙を流す前にしなければならない事があるから。



昔、お日様園でよく瞳子姉さんに本を読み聞かせてもらっていた。
その中でも、『白雪姫』が特に好きだった。

深い眠りに落ちた姫が王子様のキスで目覚めるシーン、あのシーンがとても好き。


だから俺は緑川にキスをした。
1年前と同じように、ありったけの愛を唇に乗せて、優しくキスをした。

きっとこれで、目覚めてくれるはず。




「……っ!なんで、」


目覚めのキスをしたのに緑川は目を覚ましてくれない。

だからまたキスをする。
お前が目覚めるまで、何度でも何度でも、



「っヒロト!もうやめて!!」

姉さんが、耐えきれないとでも言うように俺を緑川から引き剥がした。

「リュウジはもう帰ってこない…童話みたいに目を覚ましたりしないのよ!!」

そう言って、姉さんは俺を強く抱きしめた。
俺が壊れてしまうくらい強く、強く。

「ヒロト…ヒロト…!
辛いのはよく分かるわ。けど、ちゃんとリュウジにお別れしなきゃ……っ!」




…本当は分かっていたんだ。

童話どうりにいくなんて、キスをして目が覚めるだなんて、そんな事無いって分かっていた。

けど認めたら絶対に駄目だと思った。
だって認めたら緑川は、リュウジは、


「……っ!」

ここになって涙が止めどなく溢れて来た。
それはもう、大雨の様な。

耐えようとしても耐えられない。ごめんね、カッコ悪くて。


「…ばいばい、リュウジ…っ」


本当はお別れなんてしたくないけど、でも君はもう帰ってこないから。





童話とは違う結末
さようなら、愛しい恋人。







「! …桜、」


開かれた窓から桜の花びらが漂う。
それもひとひらじゃなくて、沢山の花びらが風に流されながらひらひらと。

それは、緑川との別れを惜しむこの部屋には不釣り合いな程綺麗なピンク色。


ひらり。
あるひとひらが緑川の頬に降りた。

なんだか、緑川が微笑んでいるように見えた。






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