※イナクロ他部活パロ





「影山、部活行こーぜ。」
「うん!」


自慢のギターを背中に担いで部室へと向かうのは、1年生で軽音部のマサキと輝。

と言ってもギターはまだ始めたばかりの初心者で、コードもろくに覚えていない。

だが2人にとってギターは、そして音楽はすでにかけがえのない物となっていた。


「ねぇ狩屋、僕ちょっとだけコード覚えたんだよ!」
「嘘つけ、チューニングもろくに出来ないくせによく言うぜ。」
「うっ!!」

輝は反論出来ない、とばかりに顔をしかめた。



2人は重たいギターを担いで長い階段を1段1段登る。
長い階段のその先には、軽音部の部室が。


「「こんにちはー!」」
「おぅ、狩屋、輝。」

元気よく部室に入り挨拶した2人に、先輩達が返事をしてくれた。


「先輩、聞いてください!僕、コード覚えたんですよ!」
「チューニングも出来ないお前がか?」
「うっっ!!先輩まで狩屋と同じ事言わないで下さいよ!」
「はははっ」

先輩と仲良く話す輝を尻目に、マサキはケースから自慢のギターを取り出した。

「あぁ…やっぱ俺のギターかっけぇ…」
「また狩屋のギター自慢はじまったぞーw」



マサキのギターは、白とエメラルドのコントラストの映える物だった。

確かに色合いなどは良いものの、どこのギター屋にも売ってそうなありふれた物で、別段かっこいいと言う訳でも無い。

勿論、特別価値が高い物というわけでもない。


だが、マサキにはこのギターが世界1のギターに見えた。

それを先輩は半ば呆れ気味にからかう。


「つーかお前、ほんとエメラルドグリーン好きだなあ。まぁ確かに綺麗な色だとは思うけど。」
「でしょ!俺、筆箱もペンもピックもエメラルド色ですから!」
「はいはい、知ってるよw」


エメラルドグリーン。
マサキはこの色が大好きだった、私物をもエメラルドに染めてしまうほど。

好きな理由は特に無いが、しいていうなら自分の髪色と似てるからだろうか。


「ギターとセットでピックもエメラルドってのがたまんないんですよ、弾いてる時テンションあがる…って、あれ?」

すると、ポケットの中をごそごそしながらマサキは声をあげた。

「…あれ、無い、無い…?」

ケースについているすべてのポケットの中を覗くが無い、無いのだ。

エメラルドのピックが。


「ピック無くした…?うわ、まじかよ!」

ここに閉まっておいたはず、と何度もポケットの中を覗くがピックの姿はない。


「ポケット開きっぱなしにしてたんじゃね?そんで来る途中に落としたとか。」
「ありえますね…すいません、ちょっと探してきます。」
「俺の予備のピック貸そうか?」
「いえ、大丈夫です。探してきます!」


マサキは、ピックを探しに部室を飛び出した。





世界がわる




「無い…どこにも無い…」


マサキは教室から部室までの道をさかのぼり懸命に廊下を探したが、結局ピックは見つからなかった。

そもそも別の場所に落とした可能性だってあるし、ピックなんて小さい物を見付けるのは難しいことだ。


「諦めるしかねぇか…」

マサキはため息をついた。




ほんの1ヶ月前位の時、マサキはギターの虜になってさっそく輝とギターセットを買いにいった。

僅かな小遣いで買える物なんて限られていたが、その限られた中から慎重に吟味し、選び抜いたのが今のギターだ。

そしてピックも慎重に吟味して選び抜いた物。


ギターを語れる程の腕も経験も無いマサキだが、愛着ならすでに沸いていた。

いくら変わりがきくと言ってもやはり手放したくはない。


…しかし、残念ながら見付からないのが現実である。


「しょうがねぇ…帰るか。」

今度の土日にでも新しいピック買いに行こう、などと計画を考えながらとぼとぼと部室へ戻るマサキ。

そして曲がり角を曲がろうとした、その時、



「おわっ!?」
「うわっ!!」

誰かとぶつかり、マサキは床に転んでしまった。
ぶつかった相手は転びはしなかったものの、よろめいた。


「いって…」
「す、すまない!大丈夫か?」

そう言って転んだマサキに手を差し伸べてきたのは、ピンクの髪を2つ結いにしているとてつもない美少女だった。

ぱっちりとした二重、筋の通った鼻、魅惑的な唇、透き通るような肌。
芸能人なみ…またはそれ以上の美少女だった。

マサキは驚愕する、こんなにも可愛い女子が雷門に居ただなんて、と。

「あ、ありがとうございます。」

美少女はマサキを立たせ、何度も謝った。
それに対してマサキもズボンをはたきながら、こちらこそすみません、と謝る。

しかしここで、マサキはある事に気付いた。


「…え?あ、あれ、なんで学ラン、」

見ると、美少女は何故か学ランを身に纏っていた。
勿論学ランは、男子生徒が着る物。

美少女が学ランを着ているだなんておかしいに決まっている。

すると、美少女は少し不機嫌気味に言い放った。



「…俺、男だから。」
「…………え?」

かなりの間を開けて、マサキは聞き返す。
そして言葉の意味を理解した途端、廊下のど真ん中と言う事も忘れ、叫んだ。


「え、えええええええ!?!?お、男っ!?」
「まぁ、よく間違えられるけど…」

いや、これはもうよく間違えられるとかいうレベルではない。
10人中10人が女子と思うほどの容姿だ。

先程、一目惚れしそうな程波打った胸のトキメキを返せ、とマサキは強く思った。



「それじゃあ俺、もう行くから。」

美少女…いや、美少年はそう言って背を向けようとした。

「あ、あの、待ってください!!」

しかしマサキがとっさに呼び止める。


「何だ?」
「え、えっと…ピック見てませんか?ギターのピック。」

とっさに出たのはピックの事だった。
知ってる訳がない、と思いながらも一応聞いてみた。
しかし、それは嬉しい誤算となる。


「ピック?…あぁ、エメラルド色のやつか?」

そう言いながら美少年はポケットからある物を取り出した、そう、それは紛れもないマサキのピックで。

「俺のピック!!」
「これ、さっき廊下で拾ったんだ。お前のだったんだな。」

ニコリ、と笑ってピックを手渡してくる美少年。
ピックを受け取り、マサキは感謝の言葉を言う。

「ありがとうございます、ずっと探してたんです!」
「そうか。お前、ギター弾くのか?」
「え?まぁ一応…軽音部なんで。」
「へぇ、軽音部か。」

どうやら、多少なりとも興味を持ってくれたようだ。


「実は、俺の友達がピアノとかしてるのもあって、俺音楽には興味あるんだ。まぁギターはあまり詳しくないけど、でもかっこいいよな。」

そう言って、ふと何かを思い出したかの様に じゃあ俺はこれで、とまた背を向けた。
しかしマサキはまた呼び止めた。


「あっ、あなた、名前何て言うんですか?」
「ん?俺か?
俺は2年の霧野蘭丸、文化部だ。それじゃあ部活あるからもう行かないと、」

そう言ったあと、どんどん遠くに行ってしまうピンクをマサキは突っ立ったまま見つめていた。



鮮やかなピンク、しかしそれ以上に眼に焼き付いて離れないのは、蘭丸のエメラルドの瞳だった。

まるで吸い込まれそうな程澄みきっていて、今まで見てきたどれよりも綺麗なエメラルド色をしていた。


「…やっぱ俺、エメラルド好きだわ。」


エメラルドグリーン、それはマサキの髪色であり、マサキの好きな色。
だが、更に好きになってしまった。


そしてこの日をきっかけに、マサキの世界は変わる事になる。





世界が変わる、瞬間。
(( その時見えたエメラルド ))






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