もう何度目か分からない、春奈の訪問。

中には今日の様に夜近くに訪問してくることもあったが、迷惑だなんとか言いながらも結局家に上がらせていた。
そしてそれは今日も例外では無くて。


そこは木暮本人の優しさなのか、それとも単なる惚れた弱味なのか。




「今日兄さんに会ったんだけど、兄さん…フィフスセクターなんだって。」


半ばやけ酒をしながら春奈が吐き出した言葉。
前々から、春奈にフィフスセクターの事を聞かされていた木暮は驚いた。

「き、鬼道さんがフィフスセクター?」
「そうなのっ!!」

飲み干したグラスを、ダンッと叩きつける様に机に置いた。

そんな春奈の瞳は動揺や悲しみで揺らいでいて、今まであまり見た事のない表情をしていた。

「音無…」


今まで春奈は兄である鬼道に全幅の信頼を寄せていたし、フィフスセクターのやり方は間違っていると言って、フィフスセクターを嫌悪していた。

それなのに、信頼している兄が嫌悪しているフィフスセクターの1人だったと言うのは、春奈にとってとてもショックな事だったのだ。



「なるほど、それでこんな時間に俺の家にやけ酒しに来たってわけか。」
「…ごめん。」

春奈は顔を伏せ、蚊の鳴くような小さい声で小さく謝った。


「んだよ、お前がいきなり俺の家に来るのなんて今に始まった事じゃねえし、第一お前が素直に謝るのってなんか気持ち悪いんだけど。」

木暮はそう言いながら、2人分のグラスにコポコポと酒を注いだ。


「しかたねーな、今日はお前の気がすむまで付き合ってやるよ。」

木暮は優しく微笑みながらグラスを差し出した。
春奈はそのグラスを受け取り、そしてそっと口を付けた。

一口、喉を通った瞬間にじわりと体全体に染み渡るアルコール。


春奈はそれに溺れるように、一気に飲み干した。





貪るアルコール






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