上がり
(( 初めて、君と出会った。))





ネビルは教科書を抱え、雨上がりで湿った空気の漂う廊下を歩いていた。

蒸し暑く、なんとも言えないこの微妙な温度がなんとも居心地悪い。
早く談話室に戻ろう、と歩くスピードを早めた次の瞬間、


「うわっ!」

素っ頓狂な声を出して、ネビルは何もないはずの廊下で派手に転んでしまった。しかも顔面から。

周りに居たスリザリン生たちは腹を抱えて笑っている。


「いたた…」

ヒリヒリ痛む鼻をおさえながら、床にぶちまけてしまった教科書を掻き集める。
自分の痴態を笑うスリザリンたちの事はなるべく考えないようにしながら。


(ったく、僕はなんでいつもこうなんだろう…恥ずかしくて仕方がないよ…っ)

羞恥で顔が赤くなるのを感じながら、前方の教科書へと手を伸ばす。


すると、ネビルが教科書を掴もうとする前に、別の白い手が先にその教科書を取った。

「えっ?」

ネビルが視線を上にやると、



そこに居たのは、ブロンドの長く綺麗な髪と大きな銀の瞳をもった小柄な少女だった。

少女はしゃがんで、手に持っていた教科書をネビルに渡した。

「はい、これ教科書。」
「あ、ありがと、」

ネビルは少女から教科書を受け取った。

2人は立ち上がり、ネビルはパンパンとローブを払いながら尋ねた。


「えっと、…君、レイブンクロー?」

少女のローブやネクタイはレイブンクローの象徴である青色だった。
案の定、少女はうん、と頷いた。


「な、何て言うか…こんな廊下で転ぶなんて、ほんと恥ずかしいよね僕…」
「別にいいんじゃない?もしかしたら透明な怪物が貴方の足を引っ張ったのかもしれないよ。ほんと、お茶目だよね。」

よく見れば少女は摩訶不思議なアクセサリーを纏っていて、蕪のような変わったイヤリングを付けている。

そしてさっきの変わった発言からして、少しズレた子なのかとネビルは悟った。




「あれ、ルーナ・ラブグッドだわ。」
「変人で有名な?」
「そうそう!ほんと、レイブンクローの恥よ。」

すると、隣を通り過ぎたレイブンクローらしき女子数人が少女を横目で見ながら、ルーナと言う人物を罵っていた。

その話はネビルの耳にも入った。

(この娘が、そのルーナなのかな。)


ネビルがそう考えていると、少女はそのまま無言で立ち去ろうとしていた。
だがその前にネビルが腕を掴み、それを阻止した。

「何?」
「え、あっ…」

ネビルは無意識に少女を引き止めてしまった様で、自分で引き止めたにも関わらずあたふたしていた。


「き、君…ルーナって名前?」
「そうだけど。」

そう、やはりこの少女が先程の女子達が話していた、ルーナ・ラブグットだった。


「えっと、さっきの女子達の話…聞こえた?」
「変人とか恥とか言う?」
「あっ、うん、それ。…あんまり気にしない方がいいと思うよ。」

ネビルは自分なりに、傷ついたであろうルーナを気遣って言葉をかけた。


するとルーナはクスッと小さく笑った、別に先程のことなどあまり気していない様子だ。


「ああいう事言われるの、もう慣れっこだから大丈夫だよ。じゃあね。」

そう言ってルーナはネビルに背中を向け、歩み始めた。
ネビルは向こうへ行くルーナの背中をぼーっと見つめていた。



が、いきなり叫んだ。


「ぼっ、僕はネビル・ロングボトム!!…またね、ルーナ!」


いきなりの大声での自己紹介に周りに居た生徒達は驚き、ネビルに視線を向けた。

だが当のルーナはまったく動じず、ゆっくり振り向いてから優しく微笑み、何事も無かったかのようにまた前に進みだした。



(な、なんでいきなり自己紹介なんかしたんだろ…)

ネビル自身、理由など分からなかった。

だが、ルーナを一目見た時からなんだか言葉に表せない、不思議な何かを感じていたのだ。

だからこのまま別れるのが嫌で、せめて自分の名前だけでも伝えたくて。


(…まぁいいか。)



ネビルは談話室へと歩き始めた。
さっきまでヒリヒリしていた鼻の痛みはもう大分治まっていて。

空にはうっすらと虹がかかっていた。






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