『別れよう。』



あの日、そう言って関係を終わらせたのは誰でもない僕自身だ。

彼女と付き合って少し時が経って。
ある日、もうこの関係を終わらせてしまいたいと思った。

寮も違うし、表ではいがみ合う振りをしなければならないし、ましてや相手は穢れた血。

色々な事に疲れてしまった。


だからなんとなく、いたって軽い気持ちで別れ話を切り出した。


『…そう、奇遇ね。私も貴方に愛想つかしてた所なの。』

彼女はそう言ったけど、言葉とは真逆に今にも泣きそうなくらい顔を歪めていた。

それでも泣くまいと、必死に唇を噛み締めて堪えていて。


それじゃあさようなら、と言って彼女は走ってその場を去っていった。






「ねぇハーマイオニー、僕、宿題がなかなか終わらないんだけど。」
「まったくロンったら。しょうがないわね、教えてあげるわ。」


廊下で2人とすれ違ったとき、ふと耳に入った会話。

僕と別れてから、彼女はあの忌々しい赤毛と付き合いはじめた。



「可哀想に、ウィーズリーは穢れた血に教えて貰わなければならない程の脳しか兼ね備えていないんだな。」


つい言ってしまった、赤毛と彼女を侮辱する言葉。

だってしょうがない、2人が仲良くしているのを見るとたまらなく苛々して、何か言ってやりたくなるんだ。


「黙れマルフォイ!ハーマイオニーを穢れた血だなんて呼ぶな!!」
「ロン、いいから。」

僕に反発してきた赤毛を彼女が宥める。

そして、チラッと彼女が僕を見た。
その瞳はあまりにも冷たく、まるで氷のようだった。


そんな瞳を自分に向けられているこの状況に僕は嫌味の1つも思い付かず、ただ立ち尽くすしかなかった。


「行きましょ、あんな奴放っといて。」

彼女はすぐに僕から視線を外し、赤毛を見た。

だが彼女が赤毛を見る瞳は今僕に向けられたものとはまったく違う、優しい瞳。
僕が彼女と付き合っていた頃、よく見せてくれていた瞳。




2人が僕に背を向けて向こうへと歩いていくのを見ていると、無性に何かが溢れだしてきた。


「…どう、して…」

どうしてこうなってしまったんだろう。

今でもこんなに彼女が好きなのに、どうして別れたりしたんだろう。


もしあの日、僕が別れ話なんかしてなかったら違う未来が待っていた?
君の隣にいるのはその赤毛じゃなくて、僕だった?


押し寄せるのはひたすら大きな後悔。

君との関係をこの手で終わらせてしまったあの日の自分を、僕自身をこの手で殺してしまいたいくらいだ。


「…っ、くそ…!」

容赦なく溢れだす色々な気持ち。
そしてボロボロと零れる涙。


でも、どんなに強く君を想っても、もう元には戻れないんだ。









そしたらきっと、幸せな未来が、






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