※ミストレが女
我が儘お姫様与えられた任務をこなした後、錘の様に重い体を引きずって部屋へと向かう。
俺は軍人の中でもかなり優秀な方だが、今日の任務はそんな俺でもかなり厳しかった。
勿論、負傷者だって何人もいた。
まぁ、最後はわれらがバダップが見事な大活躍をしてくれたおかげで何とか片付いたのだが。
流石はバダップ、あいつの凄さは認めざるを得ない。
まぁそんなことは置いておいてと。
俺はもう部屋の目の前まで来ていた。
部屋に入ったらまず服を脱いで、それからベッドにダイブしてひと眠りしよう、そんな予定をたてながらドアノブに手をかける。
「……ん?」
あれ、おかしいぞ。
ドアノブを捻ってドアを開けて。
そしたらおかしい光景が見えた。
ダイブする予定だったベッドには何故か先客が居て、しかもその先客は俺がよく知る人物。
しかも気持ちよさそうにぐっすりと眠ってらっしゃる。
「…なんでこいつが居んだよ。」
とりあえず部屋に入って予定通り服を脱いだ。
あ、上だけな。
つまり今は上半身裸な状態。
さて、ここからどうするか。
まず、ベッドにダイブは無理だ。ということでとりあえずベッドの端に腰をかける。
そして改めてベッドの先客の顔を覗きこんだ。
こいつは、ミストレーネ・カルス。
ガキの頃からの幼なじみで、1年前くらいから恋人関係にある。
はっきり言って、俺が見てきたなかで1番の美女だ。
体型もモデルみたいで、容姿に関しては文句の付けようが無い。
だが、高飛車で荒々しく、内面に問題がある。
「しっかし本当…なんでこいつが居んだよ。」
2回目の疑問を呟いてみた。
いや、本当に不思議なんだ。
こいつは人の部屋に行くのを好まず、自分の部屋にいるタイプだ。
俺の部屋も、汗臭そうで行きたくないと言っていたし、今までに来た回数なんて片手で数えられる程。
そんなこいつがなぜ俺の部屋にいるのだろうか、しかも俺の任務中に。
ぐるぐると頭の中で考えながら、何となくミストレの髪に触れてみた。
そしてゆっくり顔を覗きこむ。
…やはりこいつ、顔だけはいい。
瞳、鼻、口、すべての顔のパーツが完璧だ、寝顔も実に可愛らしい。
(ば、バレない…よな…?)
欲情と好奇心に負けて、俺は寝ているミストレの唇に自分の唇を寄せた。
少し触れてパッと離す。
ほんの少し、唇が軽く触れただけなのに俺の心臓はドクドクと波打っている。
いや、別にキスするのが慣れてないとかじゃ無くて、ただ相手が寝てるからバレないかどうか緊張しているだけ。うん、それだけだ。
俺は高鳴る心臓に落ち着け!と指令を出し、またミストレの顔を覗きこんだ。
どうやら起きていないみたいだ、俺はつい ホッと安堵の息を漏らした。
するとまた欲情と好奇心が俺を襲ってきて、俺は2回目のキスしようとミストレに顔を近づけた、
…その時。
「エスカバの変態。」
今まで伏せれていたはずのミストレの瞳が、ぱっちりと開かれた。
その瞬間、俺の顔からサッと血の気が引いた。
「何?寝てるアタシに欲情した?」
「なっ、てめ…っ!!
つかなんでお前ここに居んだよ!あといつから起きてた!?」
慌てる俺に対して、ミストレは何故か真面目な顔をしながら淡々と言った。
「…エスカバが任務に行っちゃうから寂しくて部屋に来た。あと、エスカバが部屋に入った時からすでに起きてた。」
さ、寂しくて部屋にきた…!?
あのミストレが、まさかこんな可愛らしい事を言うなんて…!
ぶっちゃけ、俺的にはかなり嬉しい、と言うか彼氏としてこれ以上嬉しい事があるだろうか。
しかもこいつは普段、自分の本音なんてなかなか言わない奴だし。
少し頬が赤く染まったミストレを目の前にして、今日3度目の欲情が俺の体を駆け巡った。
だが、腑に落ちない事が1つ。
エスカバが部屋に入った時からすでに起きてた、って言うことはつまり初めから起きていたってことだよな?
まったく、寝たフリなんてたちが悪い。
そうだ、ミストレは演技上手なんだ。
今までだって、何度もその演技に騙されてきた。
それなのに未だに騙されるのは単に俺が馬鹿なのか、それとも惚れた弱みか。
「ね、エスカバ。」
すると、ミストレがいきなり俺の名を呼んだ。
んだよ、と返すとミストレの口からは思いもしない言葉が。
「彼女の寝込みを襲うような変態にお願いしてあげる。…もっと、キスして?」
まったく、なんて我が儘なお姫様だろう。