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「これさ…中学レベルなんだけど」
「…ん?あぁ、ごめん。あんまりにも可愛いからちび子ちゃんを見つめちゃってたよ」
「いや、あの…ちゃんと問題見てください」

最初こそ律儀にかわいくないっと返していたが、何度言ったってコイツは仕方ないと諦めた。かなり序盤に。

クラスで下から三番目に成績が悪いサンジ君の勉強を見てやれと、クラスで上から三番目の成績の私がシャンクスにチーズケーキプレゼントの報酬付きで頼まれた仕事。

まず手始めにサンジ君に得意科目は何ですかと言えば、恋愛かなと真顔で答えられて…あぁ、シャンクスにしてやられたのか。と深くため息をついた。
そして、サンジ君が自分で言っていた通り、女性をほめる言葉は驚く程……いや、呆れる程ぽんぽん出てくる。けど、肝心の問題になるとそのぽんぽんがしーんと静まりかえる。わかりやすい。

「チーズケーキじゃ安いっつの」
「ちび子ちゃんて、チーズケーキ好きなのかい?」
「え、うん。サンジ君のテストの点数を平均20点上げられたら貰えるの」

だから頑張ってよね、と言って数学の教科書をカバンからとり出して机の上に広げれば何か考えこむような顔が目の前に。

「わからないとこあった?」
「……ん?あぁ、いや大丈夫だよ。ちび子ちゃんの教え方、すごくわかりやすいから」

にっこりと笑うサンジ君の顔を見て、ぼうっと見つめてしまった。
いけめんって得だよな、あーうらやましいっと心の中で悪態をついてさっきよりも少し難しい問題を机の上に広げた。



高校生になる前は……恋愛とか、確かに夢見てた。部活や恋愛や友だち…とにかくいろんなことに期待していた。
でも、やっぱり無理だった……恋愛は。

好きだった先輩に私なりに頑張ってアピールしてみたけど、先輩は去年卒業したし、先輩には付き合って3年の彼女がいたらしい。
しかも、卒業式の後に泣いてる女の子の肩を抱きながら涙目になってる先輩も目撃してしまった。

それから何となく気落ちして、勉強しまくって忘れようとして………恋愛はダメだったけど偏差値は手に入れたぜっみたいなしょうもない女子高生になりさがった私。
目の前にいる彼とは世界が違う。
正直、うらやましい。

「ちび子ちゃん、できたよ」
「……」
「ちび子ちゃん?」
「……え、あ…ごめん、どうかした?」
「解けたよって…どうかした?ぼーっとして」
「ううん…………あっすごい、あってる!あってるよサンジ君!」

これさっきよりもずっと難しいのに……問題から顔を上げてサンジ君の顔を見つめたら、良い先生がいるからねっだって。王子様スマイルのおまけ付きで。

そんな再試準備期間が終わり、再試験当日。
頑張ってね、と見送ればちび子ちゃんの応援があれば何だってっとへらへら笑いながら再試メンバーのルフィやゾロやウソップと同じ教室に入っていく。
じゃあ、私も本借りてから帰ろうかなぁなんて思って教室を背に図書室へ向かおうと歩き始めた。

今まで放課後はサンジ君に付き合ってたから、満足に本も読めていなかった。
本を手にとってぱらぱらとめくってみる……だけど、なんだか世界に入りこめない。

………そういえば、もうサンジ君と一緒に居ることはないのか。

なんとなく寂しいような、でも任務から解放されて晴々としているような、でもやっぱり……

「………寂しい、かも…」
「何がだい?」
「え?……えっ、ちょっとサンジ君!なんでいるの?試験は?」
「終わった、っていうか終わらせた……かな」

あっけらかんと答えるサンジ君。
サンジ君と別れてからまだ30分ちょっとしか経っていない……って、えぇこれ完璧試験終わってないじゃん。

「難しかった?」
「うん、大変だった」
「そっかぁ……再試だしね、難しい問題も出すよね……ほとんど基礎しかやってなかったしなぁ」
「せっかくちび子ちゃんの時間をおれが独占出来るように仕向けたのに、本人がなかなかにこっちを見てくれなくて」
「う〜ん、でも途中で投げ出しちゃ……ん?今、なん…は?」
「おれ、ちび子ちゃん好きだからさ。まだ一緒にいたいんだ、再試受かったらもう口実なくなっちゃうだろう?」


偏差値VS恋愛偏差値

「……ははっ……まけるわ、サンジ君には」

そして、私はサンジ君と教室まで行って先生に頭を下げて、そして再々試準備に取り組むのであった。
前回と少し違うのは、二人の間にチーズケーキと紅茶と甘いキスがあるくらい。

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すごくすごくすごく遅くなってしまって本当に申し訳ございませんでしたっ
素敵企画サイト様に参加させて頂けてものすごく幸せですっありがとうございました!







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