取引。
 その言葉を持ち出した途端に、皇帝の目つきが変わった。
 リーシェを監視するために近くに居た騎士が息を呑むのがわかる。
 なぜかはわからないが、今はそんなことを気にする余裕がない。
「あたしが、泥棒の共犯者じゃないことを証明します」
「……それのどこが取引だ」
「まだ、続きがあります! 最後まで聞いてください!」
「随分と反抗的な娘だ」
 不機嫌そうな声とは裏腹に、表情は面白い玩具を見つけた子どものようだった。
「あたしが泥棒を捕まえて、盗まれた秘宝を取り返します!」
「ほう、それで?」
「もし、それが出来なかったときは死刑でも終身刑でも、どんな罰でも受けます」
 全部マリアンヌがくれた紙に書いてあったことだ。
 皇帝が返すだろう言葉もあったから、言葉が詰まることもなかった。
 黙って皇帝の返事を待つ。
「ククク、それは誰の入れ知恵だ? アローズの娘、ではないな。マリアンヌか」
「――っ!」
 ビクッと肩が揺れる。
(バレ、てた……? どうして)
「不思議そうな顔をしている。余は、この城で起きたことはほぼ把握している。お前がマリアンヌと面識があることも、アローズの娘と知り合いだということも、な。そして、昨夜お前のところにマリアンヌが行っていたこともだ」
 絶句した。
 視線が揺れる。
「だが、それもあれの計算のうちだろうがな」
 そのあとに続けた皇帝の言葉に、思わず「え?」と聞き返す。
 どういうことだ。
「余が面白いことが好きだということを、あれは知っている。だからこそ、バレていることを前提に動いたのだろう。確かにあれの読みは当たったのだ。面白い。マリアンヌに免じて、お前の取引に応じてやろう。ただし、条件があるがな」
「条件、ですか……?」
「取引の内容は同じだ。どんな手を使ってでも泥棒を捕まえ、秘宝を取り戻せ。無事取り返せたならば、罪を取り消し、自由にしてやろう」
 皇帝は、玉座から立ちあがると、階段を降りてリーシェの目の前に立つ。
 そして、リーシェの顎を掴むと上向かせた。
「期限が一ヶ月。出来なかった場合は、爵位剥奪の上、終身刑だ。お前の一族はみな、国外追放とする。姉妹が嫁いだ先の一族も同様だ」
「―――っ! そんな! 厳しすぎます!」
 思わず反論してしまい、はっとして口を紡ぐ。
「先にお前が出した取引では、余に利益がない。それは取引と言わぬ。それともう一つ、お前が外に出る代わりに、お前の父親を人質とする」
 異論は許さない、とでも言うように皇帝はリーシェの顎から手を放し、踵を返す。
「お前の選択権は是か、否か。二つに一つ。さあ、どっちを選ぶ」

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