最近巷を騒がしている泥棒がいた。
 自ら「大怪盗」と名乗り、歴史的に価値がある宝石や装飾品などのお宝を盗んでいく。
 歴史的に価値があるお宝よりも、より高価だと思われる物には目もくれない。だから、捕らえるための作戦がたて難い。
 彼の目的は誰にもわからなかった。
 しかし、言える事は唯一つ。弱き者には手を出さず、強き者、つまり貴族相手に盗みを働く、平民からみたら英雄だということだ。
「そんで? 見つけたのかよ」
 隠れ家というには、少々広すぎる部屋。高そうなワインが入ったグラスを片手に、青年は相棒に声をかけた。
「はい」
 相棒は返事をすると、一枚の写真を青年に向けて投げた。
「へぇ〜、綺麗なもんじゃねーか」
 投げられた写真を難なく受け取ると、グラスを机上に置く。
青年は、写真を見ると感嘆の声を上げた。
「名称は“人魚の瞳”。翡翠の宝玉が特徴のチョーカーです」
「それぐらいは知ってるさ。で? 場所はどこだ。戻ってきたって事は、わかってんだろ?」
 青年は写真から視線を相棒へと移す。
 相棒は、ゆっくりと頷くと口を開いた。
「もちろんです。それは、王城の宝物庫にあります―――…」

* * *


 荒れ果てた庭。
 暫くの間手入れがされていなかったらしく、雑草が当たり一面に生えていて、綺麗な花は一輪も無くなってしまっていた。
「もう! 父様ったら。あたしが少しの間、家を留守にしていた間にお庭をこんなにしてしまうなんて」
 そんな庭を見つめていた、腰に届くほど長い金色の髪を持った娘は、溜め息をついた。
 母がなくなってからというもの、父は腑抜けになってしまっていた。
 領主としての公務はきちんとこなしているが、それが終わるとご飯を食べることすら忘れたように、昼夜問わずボーっとしていたり本を読む日々は続いている。
 そんなだから使用人が金目の物を持って逃げるし、詐欺にあって残っていたお金も騙し取られてしまうのだ。
 娘は、両手を腰に当ててもう一度溜め息をついた。
「やっぱり、あたしがいなきゃだめなんだわ。このままじゃ、爵位も領地を取り上げられてしまうもの」
 今となっては、広いだけが取り柄の屋敷と名ばかりの爵位しか残されていない。
 領民よりもお金を持っていないのだ。
 その日一年の土地代を国に納めるお金すら大変だというのに。
「なんのために、あたしが違う土地に行って働いていると思ってるの?」
 父が治めるこの地では、娘――リーシェの顔が知られている。
 他の領主に嫁いだ姉たちの手を借りて、仕事先を紹介してもらい父のためにせっせと働いているのだ。それで出来るお金は微々たるものだけれど、毎日働いていれば、一年の土地代に充てられる分ぐらいにはなる。
 普通だったら、そんなことは爵位を持つ家の令嬢はしない。
 現に、従姉妹のダリィはそんな生活を毎日送っているのだと、自慢げに写真つきの手紙を事あるごとに送ってくる。まったく、嫌味なものだ。
 出来るなら自分だって一日中、従姉妹みたいに優雅に、のんびりだらだらと過ごしていたいものだ。
「はあ、もういいわ」
 三回目の溜め息。
 今日一日で何度つくのだろう。
 リーシェは踵を返すと。屋敷に入っていった。

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