いつまでそうしていたのだろうか。
 噴水の傍で膝を抱えるようにリーシェは座っていた。
 膝と膝の間に顔を埋める。
 頭の中は真っ白で何も考えられなかった。
 一体、何が起きたのだろう。
 わからない……。
 冷たい風に、膝を抱える腕に力を込める。
(ふぁ、ファーストキスだったのに……)
 一人「うーうー」唸っていると、なんだか騒がしくなってきた。
 今居る場所は会場から離れているから音楽が聞こえてくるはずがない。
 華やかな音楽には到底思えない、厳つい男の声。
「―――!!」
 リーシェはゆっくりと顔を上げて、耳を傾ける。
 何を言っているのか聞き取れないからだ。
「く……ど」
(くど? やっぱり聞こえない)
 リーシェは立ち上がると、軽く土を掃う。
 中庭から廊下に移動すると、もう一度耳を傾けると今度ははっきりと聞こえた。
「コソ泥め! どこに行きやがった」
「おい、とりあえず陛下に報告だ! “人魚の瞳”が盗まれた!」
「まだ近くに隠れてるやもしれん。探せ! 鼠一匹逃がすな!」
(泥棒?)
 複数の荒々しい足音が聞こえてくる。
(うそっ! こっちにくる……!)
 どうしよう。
 後ろめたいことは何もないけど、隠れなければいけないような気がしてならない。
 だが隠れる場所などどこにもない。
 いや、あるにはある。
 でも、
(その前に見つかっちゃう―――……!)
 あたふたとしているうちに、足音の主たちがやってきた。
「隊長! 怪しい女を発見しました」
「取り押さえろ!!」
 怒鳴り声に振り向く。
 そこには、騎士服に身を包んだ男たちが数人。
 腰には剣。
「抵抗するならば、斬る!」
 剣の柄に手がかかる。
「―――っ」
 声にならない悲鳴を上げて、リーシェは恐る恐る両手を挙げた。
(く、来るんじゃなかった)
 ファーストキスは奪われるし、怖い目に遭うし。
 ミトラには悪いけど、さっさと帰っていればよかった。

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