リーシェとミトラは庭園に来ていた。
 色とりどりの花と、多い茂った木々。花壇に目をやると、見たことのない花が咲いていた。
「それは『アディス』です。この国よりさらに南西にある地方で咲く花なのです」
 背後からミトラの声ではない、聞き覚えのない幼女のような声が聞こえた。
 振り返ると、そこには薄緑色の瞳が特徴的な少女が立っていた。
 ミトラに負けず劣らずのフリフリドレスに身を包み、彼女の横には今朝玄関で出迎えてくれた年配の執事が。
 知らない顔に首を傾げていると、「まあ」と横でミトラが声を上げる。
「マリアンヌ様ではありませんか」
「ええ、お久しぶりです。ミトラ」
(えーっと……?)
 いつの間にか二人の距離は縮まっていて、リーシェだけひとりポツンと残されていた。
(どうしよう……)
 きゃっきゃとはしゃぐ二人の会話を中断させるのもなんだか悪い。
 とは言っても、このままだと仲間はずれにされている気分だ。
 どうしようか迷っていると、急にミトラが振り返るもんだから驚いて一歩後退りする。
「申し訳ありませんでした、リーシェ。ご紹介いたしますわ。この方は、マリアンヌ・ヴィラ・ドール皇女殿下です。マリアンヌ様、こちらはリーシェ。わたくしのお友達ですの」
「初めましてです、リーシェ。よろしくお願いしますです」
 優雅な礼に、慌てて「よ、よろしくお願いします」とお辞儀する。
 マリアンヌ・ヴィラ・ドール皇女。
 齢十二歳にして、天才発明家の異名を持つ皇女様。
 噂だけは聞いたことがあったが、初めて見た。
「リーシェの家名はなんというです?」
 小首を傾げるマリアンヌは、歳相応に見えて可愛らしい。
「エインズワースです」
「まあ、あの……? そう、あなたがそうなのですね?」
「え?」
 含みを持たせた反応に、今度はリーシェが小首を傾げる。
(なんだろう。とても気になる)
「ま、マリアンヌ様? どうしてこちらに、パーティーはまだ終わっていないはずですわ」
 話を逸らすように、わざとらしく手を叩き新しい話題を作ろうとするミトラ。それに気付いているのかいないのか、マリアンヌは「休憩しに来たのです」と答えた。
 明らかな不自然さに気になったリーシェだったが、深く追求するのもどうかと思う。
(だって、話したくなさそうだし)
 嫌な気分じゃない、というには抵抗がある。
 でも、ここで追求したらいけない“予感”がするのだ。
 こうしてリーシェが一人悶々と考えている間にも、ミトラとマリアンヌは楽しそうに会話を続けている。
(こういうときは、聞いちゃうのが手っ取り早いんだけどなー)
 女の感とでも言うべきなのか、聞きたいと思えないのだ。
(心が、拒絶してるみたい)
 無意識に。
「あら、花火ですわ」
 何かが爆発するような音が連発する。
 庭園は、透明のガラスが壁として使われているから、外の様子がよく分かる。
 外はもう暗く、星と月がキラキラと輝いている。
「舞踏会の開始の合図です。城下ではお祭が開かれてるはずですね」
 天を仰ぐと、爆発の音とともに火花が飛び散っている。
 まるで、空に咲く巨大な花のよう。
「あれが、花火……?」
 聞いたことのない名だった。
 ついでに見たこともない。
「はい。私が、異国の技術と組み合わせて作り出したのです」
 と、マリアンヌ。
 当たり前のことのように、すらっと答える彼女にリーシェは目を真ん丸くした。
 歳からしたら、リーシェのほうが五つ上だ。
 なのに、この違いはなんだろうか。
 さすが“天才発明家”と呼ばれるだけある。
「リーシェ、会場に戻りましょう?」
「え? あ、うん」
「それではマリアンヌ様。わたくしたちはこれで」
「はい。楽しできてくださいです」
 ミトラは、未だに花火に見とれているリーシェの腕を掴む。
 ずりずりと、引きずられるようにリーシェは庭園をあとにするのだった。

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