時間というものはすぐに過ぎ去っていくものだ。
 特に何が起きることもなく、楽しい時が過ぎていく。
 会場の外は、太陽が傾き夕暮れ時となっていた。
「もー食べれないわ」
「ふふ、食べすぎですわ。そんなに食べては太ってしまいます」
「いいの! デザートは別腹、って言うでしょ?」
「言いますけれど……」
 少し膨らんだお腹を押さえ、リーシェは息を吐く。
 こんなに食べたのはいつ以来だろう。
(母様がまだ生きていた頃だわ)
 父もしっかりとしていたし、お金もあったから。
「リーシェ、庭園に行ってみません?」
「庭園? いいかも。食後の運動にもなるしね」
「ええ、お父様に聞いたのですけど、とても綺麗だと言っていましたわ」
 ミトラと一緒に居ると笑顔が絶えない。
 勝手に行ってもいいのだろうか、とも思ったがそれは問題ないらしい。
(そういえば、ミトラって時が時なら皇女様だったのかもしれないのよね)
 分家筋の皇族。確か、アローズ公爵の兄が今の皇帝陛下だった。
 当時は、跡目争いが勃発してたとか。
 現皇帝派とアローズ公爵派で。
「さあ、行きましょう?」
 リーシェは、ミトラに手を引かれながら会場を後にした。


「そろそろ、だな」
 青年は王城の屋根に上っていた。
 彼の背後には、相棒が仁王立ちしている。その目は不満そうだった。
「はあ、情報収集を人に任せて、あなたはここでだらけていたんですね」
 あからさまに溜め息をつくと、相棒は本音を口にした。
 それを聞いて、青年は「そりゃあ、違うだろ」と言う。
「なら、なにが違うと言うんです?」
「見て分からないとは、お前の頭は堅いな。俺は、ここで体力の温存をしていたんだ」
「……」
 偉そうに胸を張る青年。
 相棒はもう一度溜め息をついた。
 呆れてものを言えないとはこのことだ、と相棒は思った。
 青年は、勢いをつけて立ち上がると、高い位置からの王都を見渡す。
 相棒の冷たい目線には一向に気付く気配がない。
「陽が沈む。なあ、ディオ」
「はい?」
「お前の夢、絶対に俺が叶えてやるよ」
 自信満々の顔で言い切る。
 相棒はその顔を見て、珍しくもふっと笑みをこぼし「そうでなければ困ります」と言った。
「俺は、口に出したことは何があっても曲げねぇ。それが俺の流儀だ」

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