「では、行って参りますわ」
「お世話になりました」
 挨拶を済ませると、迎えに来ていた馬車に二人は乗り込んだ。
 あの後食事が終わるとすぐにミトラの部屋に戻り、ドレスに着替えた。
 リーシェはもちろん母のドレスだ。
 ミトラは、朝来ていたものよりさらにフリルが増えたドレス。
 そうじゃなくても幼く見えるのに、フリルがふんだんに使われているドレスを着ると余計に幼く見えた。
(……まあ、可愛いんだけどね)
 今乗っている馬車は、荷馬車より断然乗り心地が良い。
「うわ、すごい!」
「あら、説明していませんでしたわね。皇帝陛下主催の舞踏会が開かれる日は、城下では盛大なお祭が開かれるんですの。とても賑わっていて楽しいらしいですわ」
 馬車の窓から外を眺める。
「リーシェは、舞踏会よりもお祭のほうが興味あるのかしら」
「え?」
「だって、ずっと外を見ているんですもの」
(確かに、そうかもしれない)
 舞踏会よりも城下で開かれるお祭に行ってみたいと思っている自分がいる。
「ねえ、ミトラ。ミトラはあのお祭に行ったことある?」
「いいえ、わたくしもありませんわ」
 ミトラは首を横に振る。
「それよりも、見てくださいな。王城ですわ」
 話を変えるように、ミトラは前を指差した。
 リーシェも、ミトラから指差された先に視線を移す。
(わー、綺麗……)
 純白の城壁、おとぎ話に出てくるような理想通りの城だった。
(こっちの門兵は、すごく優しそうな顔してる)
 王都に入る前にあった門の軽く五倍はありそうな城門。その前に、軍服ではなく騎士服に身を包んだ門兵が二人組みで立っていた。
(ん〜でも、優しそうっていうより、優男って感じね)
「リーシェ、招待状の準備をしておいたほうがよろしいですわ」
「うん!」
 リーシェは元気よく返事をすると、言われた通り懐から紹介状を取り出す。
 それから少しして、馬車が止まった。
 トントン、と窓を叩く音がする。
「失礼します。お名前と招待状を確認させて下さい」
 窓を開けると、門兵が話しかけてきた。
「わたくしは、ミトラ・アローズですわ。これが招待状です」
 ミトラは笑顔でお上品に名乗ると、招待状を見せた。
「はい、確認いたしました。そちらの方も」
「あ、はい。あたしは、リーシェ・エインズワースです」
 慌てて返事をすると、リーシェも同じように招待状を見せた。
「はい。確かに。ごゆっくりどうぞ」
 門兵たちは一歩離れると、綺麗なフォームで敬礼する。
 そしてまた馬車は動き出した。

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