ダリィが開けてくれた門を通る。
さっきまで勢いが良くて、口が悪かった門兵の顔をちらりと盗み見る。
(ざまーみろっての)
顔面蒼白だった。
リーシェを睨む気力すら残っていないみたい。
それもそのはず、明日には門兵を辞めさせられるのだ。養う家族がいるのか知らないが、職を失うというショックはとても大きいのだろう。
「やっぱ王都ってすごい」
故郷を出てから驚いてばかりだ。
見たことのないものばかりで、飽きない。
アローズ公爵のお許しが出たら観光させてもらおうかな、とさえ考えるほどだった。
賑わう町並み、活気溢れていてすごいとしか言いようがない。
「きゃあっ」
背後からドスンと誰かがぶつかってきて、その場に転ぶ。
「いたたた」とお尻をさすっていると、ぶつかってきた人を見る。
ボサボサ頭の少年だった。
「ごめんね、お姉ちゃん。僕、急いでるから!」
謝るのもそこそこに、風のように走り去っていく。
「おい、そこのくそガキを誰か捕まえてくれーっ!! 食い逃げだー」
人垣を掻き分けて、コックの格好をした中年の男が叫ぶ。
「おい、嬢ちゃん。あんたにぶつかったガキ、どっちに行ったかわかるか?」
呆然としていたリーシェはとっさに声が出ず、こくこくと頷きながら少年が走っていった方を指差す。
「ありがとな、嬢ちゃん。だが、一つ言っておく。持ち物をよく確認しておきな、財布がなくなってるかもしんねーぞ」
「は、はい……」
男は、リーシェが指差した方向に走って行った。
ゆっくりと立ち上がると、言われたとおり持ち物を確認してみる。
(招待状は、ある。うん、大丈夫。荷物もあるし、なにも無くなってないわ)
一瞬の間が空く。
(ん? うそ)
がさがさと荷物を手探りで漁る。
「さ、財布がないーっ!!」
男の言うとおりだった。
突然の大声に、周辺にいた人たちが「何事だ」と一斉に振り返る。
(ま、まさか)
スリに遭うなんて思いもしなかった。
がっくりと肩を落として、とぼとぼと歩き出すリーシェに誰も話しかけることができず、代わりに道を譲っていく。
このとき、リーシェの脳裏には警察に行くという発想は浮かんでいなかった。